カザフスタンのナザルバエフ大統領電撃辞任

 カザフスタンの初代大統領であり、ソ連時代末期から約30年間にわたり同国のトップの座にあったヌルスルタン・ナザルバエフ大統領(78)が電撃辞任し、大統領代行に盟友で中国専門家でもあるカシムジョマルト・トカエフ上院議長、後任の上院議長にナザルバエフ氏の長女ダリガ氏が選出された。また、来年4月の予定だった大統領選が6月9日に前倒しされ、ダリガ氏を大統領に据える環境が整った。
(モスクワ支局)

代行人事を中国歓迎
6月大統領選、長女が有力

 中央アジアの地域大国であり資源大国のカザフスタンにとって、経済成長を続ける中国は極めて魅力的な市場であり、貿易額は増大している。この中国市場をめぐり、同じく資源大国のロシアは強力な競争相手だ。

ナザルバエフ大統領

カザフスタンのナザルバエフ大統領=2018年10月、ブリュッセル(EPA時事)

 同時にカザフスタンは、安全保障面でロシアを必要としている。カザフスタンは旧ソ連邦構成諸国のキルギス、タジキスタンなどとともに、ロシアを盟主とする集団安全保障条約機構を形成。ロシアがタジキスタンに設置した第201軍事基地には同条約機構の集団緊急展開軍が置かれ、そのプレゼンスは、中央アジア地域へのイスラム過激派浸透への抑止力となっている。

 ロシアの上級経済学校のカーシン教授は「中国はカザフスタンなどとの軍の交流を通じ、中央アジアの安全保障分野でのプレゼンスを高めてきた。しかし、ロシアと中国はお互いに、この地域の安全保障ではロシアが主要な役割を果たすとの認識で一致している」と語る。

 このようにしてカザフスタンは、ロシアとの友好関係を保ったまま中国からの投資を積極的に受け入れてきた。その上で中央アジア地域の大国として、中央アジアの安定に向け、さまざまな国際紛争の仲介に動いてきた。中国からは、「カザフスタンと中国は常に、地域の問題を共同で解決する準備がある。カザフスタンは中国の理想的なパートナーだ」と評価されている。

ダリガ・ナザルバエワ氏

カザフスタンのナザルバエフ前大統領の長女ダリガ・ナザルバエワ氏=2015年11月、ロンドン(AFP時事)

 ナザルバエフ氏はソ連末期の1989年、カザフ共産党中央委員会の第1書記となり、90年にカザフ共和国大統領に就任。91年にカザフスタン共和国大統領に選出され、3月20日付で辞任するまで約30年にわたり、同国トップの座にあった。

 大統領辞任後も与党ヌル・オタンの党首であり、国家安全保障会議書記を務める。また、カザフスタン議会はナザルバエフ大統領をたたえ、首都名をアスタナから同氏の名前であるヌルスルタンに変更すると決定した。

 大統領代行に就任したトカエフ氏はソ連で外交畑を歩み、94年にカザフスタン外相、99年に首相に就任。その後も国務長官、国連事務次官や上院議長などを務め、ナザルバエフ氏の盟友として政権を支えてきた。

 ナザルバエフ氏は中国を20回以上訪問するなど、中国との太いパイプを築いてきた。そのナザルバエフ氏辞任を受け、中国のメディアでは今後の両国関係を懸念する声も出た。しかし、トカエフ氏が後任に任命されたことで、逆に歓迎ムードが広がった。トカエフ氏はソ連外務省入省後に中国で語学研修を受け、北京語を流暢(りゅうちょう)に操る。駐北京ソ連大使館に勤務するなど、中国との接点は広い。

 トカエフ氏の大統領代行の任期は2020年4月の次期大統領選までだったが、9日に大統領選を6月9日に前倒しして行うことを発表。ナザルバエフ氏の長女ダリガ氏の出馬表明は、時間の問題だろう。ナザルバエフ氏の電撃辞任も当初から、「カザフスタンで最も影響力のある女性」として知られるダリガ氏の次期大統領就任への布石との見方が支配的だった。

 一方、ナザルバエフ大統領の電撃辞任に、最も衝撃を受けているのはクレムリンという。

 プーチン大統領の任期は2024年までで、憲法の規定で再選はできない。ロシア・ベラルーシ連邦国家を、ロシアが事実上ベラルーシを吸収する形で実現し、2024年以降はその最高指導者にプーチン大統領が就任するのでは、などの見方も出ているが、事実上の終身大統領、との批判は起こるだろう。

 ナザルバエフ大統領の辞任は、プーチン大統領にとって「嫌な事例」となったとみられる。