マクロン仏政権は欧州議会選前に求心力取り戻せるか
 マクロン仏政権は、昨年11月から続く政権に対する抗議デモ「黄色いベスト運動」の収拾を目指して実施した2カ月間にわたる「国民大討論」を先月終えた。マクロン政権の支持率は、昨年12月に比べ多少回復したものの、依然低い水準で推移している。一方、マクロン氏は欧州諸国に対し、ポピュリズムの台頭を抑える提案をしたが、説得力はなかったようだ。
(パリ・安倍雅信)
ポピュリズム監視提案は不発
政権政党へ脱皮続ける国民連合
仏保守系誌ル・フィガロ・マガジンに掲載された世論調査会社カンター・ソフレスワンポイントの最新調査結果によると、マクロン大統領の支持率は26%、フィリップ首相は28%だった。
マクロン氏の支持率は、就任後最低の23%を記録した昨年12月からわずかに回復しているものの、低水準にとどまっている。先月15日に大国民討論を終えた直後に発表された世論調査では、マクロン氏の支持率は31%まで戻ったとの数字もあったが、大きくは回復していない。
国民大討論の報告が行われた2日後の今月6日に実施された21週目となる毎週土曜日の黄色いベスト抗議デモでは、参加者が仏内務省発表で2万2300人と過去最低で、暴力行為も少なかった。そのため、鎮静化の兆しと見る向きもある。
3月16日のパリでの抗議デモでは、中心部シャンゼリゼ通りや凱旋門周辺でデモ隊が暴徒化し、80軒を超える高級ブティックやレストランへの放火や破壊、強奪行為が行われ、甚大な被害をもたらした。これを受け、仏政府は2日後の同18日、抗議デモ結集場所での集会禁止など新たな対策を打ち出すとともに、パリの警視総監や幹部の更迭も行った。
危険と見なされたデモ隊の強制解散や顔をマスクで隠しているデモ参加者の一時身柄拘留、過激な違法行為を行った者に2週間は消えない液体をスプレーで吹き掛け、当日逮捕できない場合も身元捜査を可能にする対策も盛り込んだ。治安部隊の一部は破壊分子対応部隊として再編された。
マクロン大統領としては、国民大討論後は5月26日の欧州議会選挙に集中したいところだ。だが、足元の与党・共和国前進の候補者をどれだけ欧州議会に送り込めるかは不透明だ。
マクロン氏は3月上旬、英紙ガーディアンやスペイン紙エル・パイス、ドイツ紙ディ・ヴェルト、イタリア紙コリエレ・デラ・セラに「欧州ルネサンスのために」と題した提言を寄稿した。
内容は欧州で拡大するポピュリズムを批判し、民主主義を脅かすサイバー攻撃やフェイクニュースを規制する監視機関創設を提案するものだった。5月の欧州議会選挙の争点にすることで、ポピュリズム政党を抑え込む狙いもあったが、反応は鈍く、マクロン氏の提案は不発に終わった。
英国の欧州連合(EU)離脱で揺れる欧州は先行きの不透明感もあり、イタリアがトリエステ港の港湾整備に中国からの大規模投資を受け入れ、中国を警戒するドイツやフランスと足並みが揃(そろ)っていない。フランスは黄色いベスト運動の長期化で経済ダメージが拡大し、マクロン氏の支持率が落ちているため、EU内でも発言力を失っている。
一方、欧州で、ポピュリズム政党と言われながら最も強い政治的基盤を持つフランスのマリーヌ・ルペン党首率いる国民連合は、前回2014年の欧州議会選挙で24議席を確保し、政党別ではフランスでトップだった。2017年の大統領選挙でもルペン候補が他の既存大政党候補者を抑え、決選投票に勝ち進んだ。
国民連合は国民戦線時代の極右政党のイメージを払拭し、欧州の他のポピュリスト政党とは一線を画している。ルペン氏は過激な反EU、ユーロ離脱への明言を避けることで、政権を担える政党への脱皮を図っており、欧州議会選挙の動向が注目される。
マクロン氏は就任以来、自ら「改革政権」と位置付け、企業活動に自由を与える労働法改革などの大胆な規制改革に取り組み、今でもフランス財界からは評価されている。
一方、改革で期待された高失業率の大幅な改善は実現できず、支持者離れが続いている。






