英の「合意なき離脱」交渉
貿易関係でEUの干渉排除模索
EU側は関税同盟残留の妥協案
英国で3月29日(現地時間)の欧州連合(EU)離脱期限が迫り、合意なき離脱が現実味を帯びる中、EU側の懸念が強まっている。貿易依存の高いEU・英国双方は、離脱後の想定外の混乱を警戒、さまざまな準備を進めている。一方で離脱期限の延期を許容する発言もEU首脳から出ている。
(パリ・安倍雅信)
独仏首脳、期限延期を許容
争点「北アイルランド」で妥協案も
EU側で英国のEU離脱交渉を担当する欧州委員会のバルニエ首席交渉官は8日、離脱協定案で英議会が問題にしているEU関税同盟について、一方的脱退権限を英国に提案する用意があることを明らかにした。英議会がEU離脱が正式に決まるまで英国をEU関税同盟に留(とど)めるのが目的だ。
ただ、最大の争点になっている英領北アイルランドとアイルランドの国境問題(陸地においてEUと英の唯一の国境)に関する安全策(バックストップ)の他の要素は維持する考えに変更はないとも述べた。バックストップは、離脱移行期間に英国がEU関税同盟に留まることを指しているが、期限は定められていないため、なし崩し的に関税同盟に留まる可能性が指摘されている。
英国側の離脱目的は、EUからのいかなる干渉も受けず、世界のあらゆる国と新たな貿易関係を構築することにあり、離脱強硬派はバックストップ案に強く反発している。バルニエ氏は、ツイッターで「EUは関税同盟から一方的に脱退する選択肢を英国に提供することを確約する」と新たな妥協案を説明した。
同問題は、英領北アイルランドとアイルランドの国境で自由往来が妨げられ、通関手続きなど厳格な国境管理が生じることを回避するのが目的だ。流通面など経済的被害だけでなく、英国本土との間で孤立する北アイルランド地域でアイルランド併合派と英統治継続派の過激な紛争が再び起きることを回避する目的も含まれる。
国境を挟む双方は、新たなハード・ボーダー(物理的な国境)を望んでいないが、北アイルランドは関税取り扱いが英国本土と差別化されることも拒否している。バルニエ氏は、今回の提案事項を1月にすでに行っているが、今回は法的拘束力を持たせ、英国が自国の意志で関税同盟から脱退する決定を下せるものとしている。
英国では12日までに修正離脱案が議会で承認されない場合、13、14日の議会で「合意なき離脱」と「離脱延期」の採決が実施される見通しだ。バルニエ氏は、合意なき離脱を回避するため「EUは向こう数日間、英国と集中的に交渉を行う」と述べ、協議継続を表明。欧州中央銀行(ECB)の理事会メンバーであるスロベニア銀行(中央銀行)のバスレ総裁は8日、英国の合意なきEU離脱がユーロ圏に悪影響を及ぼすとの認識を示した。
今回は、バルニエ氏が英国に一方的脱退の権利を与える妥協案を示したわけだが、一方で結果として税関検査が復活することは、EUとして受け入れない考えは変えていない。それよりもEUとの新たな貿易協定締結を急ぎたい考えだ。ただ、英強硬派は、最初からの完全離脱にこだわっており、修正案は議会で承認されない可能性もある。
ドイツのメルケル首相は先月末、パリで開催されたフランスのマクロン大統領との共同記者会見で、英国がEUとの交渉により多くの時間を求めたとしても「われわれは拒むことはない」と述べ、マクロン氏とともに離脱期限の延期を受け入れる考えを示した。
ただ、ドイツ連邦議会下院の有識者が議員への補助資料として先月末に作成した意見書では、もし離脱延期となり、5月に実施予定の欧州議会選挙時に英国民がEU市民として参政権を維持した状態になれば、混乱を与えるとして、英国はEUによる法的措置の対象になる可能性があるとの見方を示している。
英議会が離脱案を承認しない場合、合意なき離脱か、離脱延期かの二つの選択肢が残り、合意なき離脱の場合、移行期間がなくなる。離脱でEUの諸法令は英国について効力を失う。移行期間が生じる場合と生じない場合を視野に、EU側は2月下旬から税関分野における準備を加速させ、業界等に呼びかけるキャンペーンを開始している。






