英、ヒズボラをテロ組織に指定

 英政府が、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの軍事部門だけでなく政治部門も違法として全ての活動を禁止した。また、中東をさらに不安定化させたとして、ヒズボラをテロ組織に指定した。これらの決定を受け、イスラエルのネタニヤフ首相は3日、英政府の「反ユダヤ主義に対する確固たる立場」に対し、メイ英首相に電話を通じて謝意を伝えた。(エルサレム・森田貴裕)

レバノン政治・軍事を支配
反イスラエルでイランなどと共闘

 ネタニヤフ氏は声明で「他の国々もイランが支援するシーア派組織の全ての部門を禁止すべきだ」と述べ、ヒズボラの軍事部門だけでなく全ての活動を違法とするよう要求した。

ネタニヤフ首相

2月28日、エルサレムで会見するイスラエルのネタニヤフ首相(UPI)

 イスラエル、米国、アラブ連盟は、ヒズボラの全部門をテロ組織に指定している。しかし、欧州などの国々は軍事と政治を区別してブラックリストに載せている。

 一方、ヒズボラは、軍事と政治を分割しておらず、指導者のハッサン・ナスララ師は「二つの体制」を否定している。

 ヒズボラは、アラビア語で「神の党」を意味し、1982年のイスラエルのレバノン侵攻に対抗し、シーア派の盟主であるイランから財政的支援を受け発足したイスラム教シーア派組織だ。レバノン軍に匹敵する強力な軍隊を維持している。また、選挙にも参加し、議会と政府にメンバーを送り込み、レバノンの政治を支配する強力な政治勢力でもある。シーア派の分派に属するアサド大統領率いるシリア政府を支援し、イランやロシアなどから強力な武器の提供を受け、シリア内戦では反政府勢力やスンニ派の過激派と戦い、実戦経験を積み上げてきた。

 イスラエル殲滅(せんめつ)を目指すヒズボラは、2006年の第2次レバノン戦争などイスラエルとの長い闘いの歴史を持つ。指導者のナスララ師は、イスラエルの主要な都市を攻撃できる数千発の最新式ミサイルでイスラエルを狙うと脅迫し続けている。

 イスラエルのニュースサイト、ネツィーブ・ネットによると、ゴラン高原のイスラエルとの国境沿いに、イラン革命防衛隊の精鋭部隊であるクッズ部隊を率いるカセム・スレイマニ司令官の指導の下で、8年間にわたるシリアの激しい内戦を戦ってきたイラン軍やヒズボラが部隊を展開し、イスラエル側を監視しているという。さらに、イラン軍やヒズボラの指揮官らは、ゴラン高原国境の奪還を狙い、シリア南部の都市ダルアーの北東地域の渓谷にヒズボラ、イラク人民動員隊、アフガニスタン軍、シリア北部の民兵などの部隊で構成されるシーア派戦闘員増援旅団を配置しているという。

 シリアのアサド大統領を支持するとされるレバノンのニュースサイト、アル・マスダールによると、シリアのアサド大統領は3月初め、ゴラン高原のイスラエル国境にシリア軍の増援部隊を送ったと表明した。イスラエルとの国境に近いクネイトラ地域へのシリア軍の増援は、戦闘が開始されて以来初めてとなる。また、反体制派と戦うことを望む地元の有志で構成される親政府派民兵組織であるシリア国民防衛隊も増援に加わった。増援部隊のシーア派戦闘員は全員、シリア軍の制服を着用し、シリアの身分証明書を持っているという。

 ゴラン高原は、イスラエルが1967年の第3次中東戦争(6日戦争)でシリアから奪い占領。シリア軍は73年の第4次中東戦争で奪還を試みたが、イスラエルが占拠を続けている。81年にイスラエルのクネセト(国会)によって併合されてはいるが、国際社会は認めていない。

 シリアは、ゴラン高原を第3次中東戦争以前の国境まで解放すると表明しており、イスラエルと対決する姿勢だ。

 アル・マスダールによると、イスラエル軍は3日夜、ゴラン高原国境に近いシリアのクネイトラ地域にあるシリア軍の駐屯地に向け、戦車による複数発の砲撃を行った。

 情報筋によると、今後のシリア軍の対応によっては、シリア南西部で緊張がさらに高まる恐れがある。