フランス 燃料増税断念もデモ鎮静化せず

年金・最低賃金の改善要求
欧州の他国にも抗議の渦広がる

 フランスで起きている「黄色いベスト抗議運動」は、4週目を迎えた。政府は世論を読み間違えたことを認め、燃料増税を引っ込め、協議での妥協点を探り始めた。自然発生的に集まった参加者らは、マクロン政権が掲げる経済政策を変更するまで運動を断念しない構えだ。すでに他の欧州諸国にも飛び火しており、収拾のめどは立っていない。
(パリ・安倍雅信)

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8日、パリの凱旋門近くでマクロン仏政権への抗議デモを展開する人々(AFP時事)

 ガソリン税引き上げに抗議する抗議運動は、11月16日にインターネット交流サイト(SNS)上の呼び掛けなどによりフランス全土で始まった。

 参加者のほとんどが一般市民で、平和的運動を望んでいたことから、仏民主労働総同盟(CFDT)など主要労組が暴力行為を行わないよう共同声明を出すに至った。ところが毎週末のデモでは、極左のブラックブロックなど過激集団がデモ隊に紛れ込み、機動隊への投石、放火、商店の破壊行為を繰り返している。

 7日には、抗議運動の目的が暴力行為で台無しになることを懸念した一部の地方の抗議集団が、パリに集結せず、地元で抗議行動を継続するよう呼び掛けた。代表者の不在や、デモの届け出がされていないなど、政府は交渉相手の特定に苦慮し、7日にようやく数人の代表との交渉を開始した。

 8日の抗議運動では、全国に8万9000人の警察官を動員し、パリでは、ルーブル美術館やエッフェル塔が閉鎖され、大手デパートも閉店した。警察官や機動隊によって厳戒体制が敷かれ、警察は集まったデモ参加者の中から凶器となる鉄球やハンマー、ガスマスクなどを所持した者を次々に検挙したが、暴徒化は避けられなかった。

 当初、政府は時間とともに抗議運動は鎮静化するとの見方を示していた。そのため、フィリップ首相は、要求されたガソリン税の来年1月の引き上げは変更しないと強気の姿勢を見せた。

 ところが抗議運動を支持する人々は減らず、1日のパリの抗議デモには、マクロン大統領退陣などのスローガンを掲げるデモ参加者が全国から集まり、デモはエスカレートした。これを受け、政府は緊急会議を4日に開き、ガソリン税引き上げの半年延期を決めたが、鎮静化せず、政府は税引き上げ政策実施自体を断念した。

 抗議集団は、購買力引き上げや貧富の差の縮小、税制についての全国協議会開催、年金受給者の一般社会税の引き上げ中止、最低賃金の引き上げ、年末の企業ボーナスの非課税、電気ガス料金の据え置きなど、要求を拡大させている。

 年末のクリスマスシーズンに道路が封鎖され、物流がストップ、破壊行為が起き、経済活動が深刻なダメージを受けている。政府は、早急に事態を収拾するため、多くの改革案をいったん断念する方向で調整に入っている。ただ、参加者の要求は幅広く、抗議運動を断念させるのは容易でないとみられている。

 当初から、欧州メディアは、欧州内の他の国々に同様の運動が波及する可能性を指摘していたが、ドイツ、ベルギー、オランダ、ブルガリア、セルビアなどで広がりを見せている。今月1日には、ドイツ・ベルリンのブランデンブルク門前に黄色いベストを着た反イスラム、反移民の極右集団が集結し、ミュンヘンでも同様な抗議デモが行われた。

 フランスの抗議運動に最も敏感に反応したのはベルギーで、すでに11月16日時点からフランス語圏で黄色いベスト運動が始まり、首都ブリュッセルでは、一部デモ隊が暴徒化した。オランダのハーグや首都アムステルダム、ブルガリアの首都ソフィアでも、黄色いベストの抗議デモが起きている。

 昨年春の大統領選で、改革を期待されて政権に就いたマクロン氏だが、企業や富裕層優遇に見える経済政策や、国民から見れば、強引で一方的な意思決定が反発を招いた。今回その不満が爆発し、欧州連合(EU)重視のマクロン政権を感情的に非難するポピュリズムが高まっているとも言われている。

 多くの経済改革を断念または縮小せざるを得なくなったことで、マクロン政権の改革路線は確実に減速を強いられた形だ。沈黙を守ってきたマクロン大統領は今週、抗議運動の代表者との直接協議に応じる構えだが、事態を収拾できるか政治手腕が問われている。