マクロン氏「欧州軍」の創設提唱

 フランスのマクロン大統領が6日、欧州の自主防衛のための「真の欧州軍」の必要性に言及したことで、米仏関係がギクシャクしている。マクロン氏の釈明に理解を示したトランプ米大統領だが、環大西洋の安全保障の枠組みは、北大西洋条約機構(NATO)の在り方を含め、新たな時代に差し掛かっているとも言える。(パリ・安倍雅信)

独仏、米頼りNATO再構築も
対露“自主防衛”を模索

 第1次世界大戦休戦協定の締結100周年を迎えたフランスでは、今月に入り、戦没者追悼のための記念行事がフランス北東部を中心に開催され、11日にはパリの凱旋門でトランプ大統領ら世界72カ国の首脳を招いて、式典が行われた。

トランプ米大統領(左)とマクロン仏大統領

10日、パリのエリゼ宮に到着したトランプ米大統領(左)を迎えるマクロン仏大統領(UPI)

 前日の10日、マクロン大統領はトランプ大統領と首脳会談を行い、トランプ氏が不快感を示しているマクロン氏の「欧州軍」構想について意見交換を行った。トランプ氏はマクロン氏の説明に理解を示した形だが、関係改善につながったかどうか疑問視する声もある。

 マクロン氏は6日に仏ラジオで、トランプ氏が中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する意向を示したことに触れ、米国の軍事力に頼らない有事に対応できる「真の欧州軍」の必要性を説いた。トランプ氏は9日、この発言についてツイッターで「侮辱的だ」と不快感を示し、「NATOへの公平な分担金をまず支払うべきだ」と批判した。

 今回の首脳会談でマクロン氏は、トランプ氏の誤解を解くべく「米国に対抗するために欧州軍が必要だと言ったわけではない」と釈明したと伝えられる。トランプ氏も「欧州の安全保障を米国だけに頼るの不公平だ。責任の分担のためにも欧州の防衛力強化が必要」と応じたと報じられた。

 トランプ氏がINF全廃条約を破棄する意向を示した主な理由は、条約の相手国ロシアが条約に抵触する新型ミサイルを開発しているからだ。同条約の目的は、ロシアと隣接する欧州の安全保障に直接関わるもので、両国が中距離ミサイルの欧州からの撤去に合意した影響は、当時大きかった。

 マクロン氏は今回の会談で、INF全廃条約の破棄で「被害を受けるのは欧州とその安全だ」と主張し、米国の国防、安全保障のよって立つところの違いを強調した。実際、米国のINF全廃条約の破棄は、欧州の安全保障に多大なリスクを与えることになるとして、ドイツでも批判的に受け止められている。

 同時に欧州は、トランプ大統領からNATOの分担金の不公平さを指摘され、さらなる分担を迫られており、欧州連合(EU)としても防衛システムの再構築が課題になっている。

 トランプ氏が、マクロン氏が欧州自力防衛のための欧州軍の必要性に言及したことに不快感を示したのは、欧州側がNATOへの防衛費分担金増額に難色を示しながら、一方で米国の権限の及ばない欧州軍創設に予算を割く提案に納得していないからだ。

 無論、トランプ政権は、NATOが米国の国益にかなっていることは理解しており、NATOから離脱する可能性は今のところない。ただ、米国の国益を最優先するトランプ政権としては、不公平な高額の分担金に不満を持っているのは確かだ。また、地理的に直接の潜在敵国ロシアと接している欧州が、より責任を負うのは当然との考えもある。

 欧州軍の議論は、1990年代から始まり、西欧同盟時代の1993年にはフランス、ドイツを中心に欧州合同軍が創設され、加盟国軍を増やしてきた。同軍は災害救援や欧州安全保障協力機構での平和維持活動、NATOの集団安全保障・防衛任務を担ってきた。

 EUは昨年、合同防衛予算を設け、NATOの枠組みとは別に9カ国から成る即応部隊を設置するなど、欧州自主防衛の動きを見せている。ドイツのメルケル首相も今年5月に「欧州は自身の手で欧州を守らなければならない」と、自主防衛論を展開している。

 背景には、トランプ氏が打ち出す対ロシア戦略だけでなく、イラン核合意離脱、貿易関税や気候変動への強硬姿勢で、欧州諸国が距離を置こうとしていることも挙げられる。21世紀に入り、米国の存在なしに欧州の安全保障が成り立つのかという議論もあり、欧州は環大西洋の安全保障の枠組みの見直しに細心の注意を払いながら取り組んでいる。