仏とシリアのIS戦闘員往来減少

 フランス南部ニームで14日、車がバーに突入する事件が起き、9日にはパリ北部19区で男が路上で凶器を振り回し、7人を負傷させる事件が発生した。先月には首都パリ南西約30キロの郊外で男が刃物で2人を殺害、1人に重傷を負わせる事件が起きている。いずれもテロとの関連性は捜査中だが、テロへの懸念が高まっている。
(パリ・安倍雅信)

EU、禁錮刑引上げ取り締り
知識・経験ない単独犯増を懸念

 フランス南部、観光地としても知られるニームのバーの前にいた客に対して14日深夜1時頃、白い乗用車が突っ込み、2人が軽傷を負う事件が発生した。目撃者の証言から、男は犯行時に「アラー・アクバル(神は偉大なりの意)」と叫んだとされ、捜査当局はテロの可能性も排除しないとしている。

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過激派組織「イスラム国」(IS)に対する掃討作戦が続く中、黒煙が立ち上るシリア東部デリゾール(2017年11月2日、AFP時事)

 バーに突入した車はその後、闘牛イベントのために設置された防護柵に衝突、運転していた男(32)は逃走を試みたが、周囲にいた人々によって取り押さえられ逮捕された。当時は金曜夜ということもあり、バーの前には約50人が集まっていたという。車を運転していた男は地元住民とみられている。

 捜査当局は、男を危険人物として監視リストに入れていなかったとしている。男は精神錯乱状態だったため病院に搬送された。結果的に死者は出なかったが殺人未遂事件として当局はテロも視野に捜査を開始した。

 今回の事件の1週間前の9日、パリ北部19区ではナイフと鉄棒で武装した男が22時頃、路上でいきなり通行人に襲い掛かり7人を負傷させる事件が発生した。捜査当局によると被害者の中には英国人観光客2人が含まれ、7人のうち、少なくとも2人は重傷を負い、病院に搬送された。目撃者の話では男は非常に好戦的で、現場周辺に緊張が走ったという。

 先月23日には、パリ中心部から南西約30キロのイブリンヌ県トラップの路上で、男が刃物を振り回し2人を殺害、1人に重傷を負わせる事件が発生した。男は現場から逃走したが、戻ってきたところを警官によって射殺された。直ちに過激派組織、「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したが、殺されたのは母親ら家族2人だったため慎重に捜査を進めている。

 ただ、男は犯行時に「アラー・アクバル」と叫んでおり、2016年から当局の監視リストに載っていたことが明らかになった。さらにベルギー・ブリュッセル郊外のISメンバーが最も多く潜伏するモレンベークとも深い関係があったとされ、15年11月の同テロの関係者とも交流があったことが確認されている。

 アメリカを中心とした有志連合の爆撃でシリアやイラクのIS拠点が激減する前は、IS戦闘員として戦っていたフランス国籍者はフランスを頻繁に出入りしていた。しかし、シリアでの爆撃が激しさを増す中、その数は内務省の発表ではピークを過ぎ、減少していると言われている。12年以降、身柄を拘束されている帰国者は255人。

 その中の69人が証拠不十分ということで釈放され、フランス国内で自由に行動している。18年1月以降、シリアからの帰国者IS戦闘員と断定できたのはわずか6人に過ぎない。この4年間に戦闘に加わるためにシリアへ渡航したフランス人は1700人とみられ、帰国が確認されたのは261人しかいない。

 帰国者が少ない理由は、17年にトルコ国境が封鎖され、フランスを含む欧州連合(EU)が域内への帰国者対策を強化したことにある。これまで戦闘地域で命を落とした仏戦闘員は約300人、数十人が家族と共にイラクやクルドで身柄を拘束されている。

 その他の戦闘員はいまだにシリアにとどまっているか、アフガニスタンやリビアのIS戦闘地域に移動したとみられている。フランスは2015年11月に起きた同時テロ以降、法律を強化し帰国者に対して7年程度だった禁錮刑が最大30年に伸ばされており帰国を踏みとどまる戦闘員も多いとみられる。

 このような状況から、フランス国内の大都市近郊の貧困地区で聖戦主義を吹き込まれ、リクルートされたアラブ系の若者を指導する戦闘経験豊富な帰国者の数が増えていない現状もある。その一方で勧誘活動の大半はネット上から行われており、リクルートは続いている。

 戦闘経験帰国者が増えない中、専門家からは十分な知識や経験のないローンウルフ型のテロリストが、思いつきでテロを実行している可能性もあると指摘されている。とはいえ大規模なテロは起きないという保障はない。