米、核合意離脱 イラン制裁再開
米国のトランプ大統領がイラン核合意に対して離脱表明した影響は、欧州連合(EU)にとって非常に大きく、イランとの経済関係の見直しを迫られている。対抗措置として発動したブロッキング規則にも関わらず、イランに投資する欧州企業は工場の操業停止や契約解除に追い込まれている。
(パリ・安倍雅信)
EUに懸念・自粛広まる
自動車工場中止、旅客機納入減も
米国は、イランの核開発に関する「包括的共同行動計画(JCPOA)」から離脱し、解除していた対イラン経済制裁の第1弾を8月7日に再開した。EUは対抗措置として同日、欧州企業に対し、制裁に従わないよう命じる「ブロッキング規則」を発動した。
核開発をめぐる交渉は、国連安保理常任理事国5カ国とドイツ(P5+1)が中心となって行い、欧州では英仏独が交渉当事国だった。トランプ大統領は昨年就任以来、イラン核合意を「最悪の合意」と非難し、イランが制裁解除で手にする経済力で中東でのプレゼンスを高めることに強い懸念を表明していた。
中東では、イスラム教の2大宗派の対立が続いており、スンニ派が大勢を占める米国寄りのサウジアラビアとシーア派が大勢を占めるイランは、シリアやイエメンの内戦で鋭く対立している。
また、トランプ大統領はイスラエルと関係を強化し、イランと対立するイスラエルは、JCPOAに当初から強く反発していた。今回の合意離脱の背景にイスラエルと米国のユダヤ社会の働き掛けも指摘されている。
EUは、米国の離脱表明を受け、7月16日の外相理事会で、対抗措置の一環としてEU域内企業に対し、制裁に関する米国など第3国の司法判断を域内で無効とする改訂「ブロッキング規則」の発動を承認した。
同規則の発動にも関わらず、米国の離脱表明以降、欧州企業は米国からの制裁を懸念し、イランでの経済活動を次々に停止しており、すでにイラン投資の損失が出ている。EUは2015年のJCPOA採択以降、17年までに貿易量が約2・7倍に増加したが、逆戻りしている。
例えば、米国でのビジネスへの影響を懸念し、仏自動車メーカー、プジョー・シトロエングループ(PSA)はイランの工場の操業を停止した。PSAは1年前に1億6800万ユーロ(約212億円)を投じてイラン国内に工場を建設していた。一方、仏自動車メーカー、ルノーは制裁に関わらずイラン国内での事業を継続している。同社は米国で自社製品を販売していない。航空産業ではイランから100機の発注が予定されていたエアバス社が3機の納入で終わりそうだ。
また、仏企業が抱える合弁事業は全て白紙に戻され、イランと天然ガス事業を進めていた仏トタル社が1億ユーロ(約126億円)の損失を出すなど、各企業にダメージを与えている。EUは企業への制裁の適用除外を求めたのに対し、米国側が書簡で正式に拒否する方針を伝達している。
一方、独自動車メーカー、ダイムラーは8月7日、イランでの企業活動を中止していると発表した。同社はイランの企業2社と提携し、メルセデス・ベンツのトラックを製造していたが、事業拡大を突然中止した。独経済省は、イランと取引する国内企業の輸出や投資に引き続き信用保証を供与する考えを示した。
マース独外相は7日、独メディアに「米国がイランへの制裁を再開したが、ドイツとEUはイランとの経済関係を維持していく」と述べ、「イランとの核合意は効果を出し、目標を達成した」との考えを示した。
イランとの経済関係復活を歓迎しているEUは、今後も関係を維持する構えだ。一方、米国は11月に第2弾となる原油・天然ガス取引やイラン中央銀行を標的とした制裁を再開させる意向だ。EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表は「正当な取引に従事する欧州企業を守る」との決意を表明している。
ただ、専門家の間では、欧州が米国に対してできることは限られていると指摘しており、イランに進出した欧州企業は自粛して操業停止や契約破棄を行っており、政府間交渉の成り行きを見極めようという動きが大勢を占めている。