仏が新テロ対策、刑務所で過激思想拡散防ぐ
 欧州で最もイスラム過激派によるテロが発生しているフランスで、仏政府は新たな対テロ政策を明らかにした。国内のテロ実行犯の多くが刑務所やサッカークラブなどで聖戦過激思想に染まっている現状を踏まえ、刑務所での過激思想の拡大を防ぎ、教育現場で生徒が過激思想に感化されるのを防ぐのが対策の柱だ。
(パリ・安倍雅信)
1500カ所に隔離スペース
教育現場で 聖戦思想の反社会性、政教分離を生徒に教育
フランスは2015年1月および12月に起きた大規模なテロを受け、非常事態宣言を発動したが、昨年11月、新たなテロ対策法案を施行することで非常事態宣言を終了した。
フィリップ首相は先月末、新たなイスラム過激思想の蔓延(まんえん)防止策を発表した。関係閣僚全てを同行して記者会見に臨んだ同首相の姿勢は、政府がいかに同問題を重視しているかをうかがわせるものだった。
一つ目は、刑務所内での聖戦過激思想拡散を阻止する対策だ。2014年から刑務所の看守たちが政府に対して要求していたもので、今回政府は、収監されている過激化の可能性のある囚人の数に相当する総計1500の個人隔離スペースを全国に設けることとし、まずは今年末までに450カ所が確保される。
背景には、テロ実行犯の多くが、軽犯罪で刑務所に収監されている期間に、過激思想を持つ他の囚人から感化され、釈放後にテロを実行しているからだ。
そのため、刑務所内での過激思想拡散の阻止が優先課題に浮上していたが、具体的対策としては更生段階でのケアしかなかった。政府の予想では、過激思想に傾倒する若者の数は今年、さらに増加が予想されている。そのため、過激化した囚人を一人一人隔離し、他者との接触を絶ち、刑務所内での過激思想拡散を阻止す措置が取られる。さらに個別のケアができる更生センターが、リール、リヨン、マルセイユの3カ所に新設される。過激思想を持つ受刑者の中で監視付きで釈放される者は、週6時間複数の分野の専門チームによってケアを受ける。
今後、個別に過激思想に染まった経緯や要因を探り、過激思想から抜け出せるよう更生プログラムを実施するとしている。フランスでは2014年に過激化防止センターを設立し、無料電話相談サービスが同年5月に開設され、2015年のテロの頻発で、人的、物的、財政面で強化され、2016年にはさまざまな具体策が講じられた。
しかし、現在、フランスでは約1万9000人が過激思想に染まっているとみられる中、対策チームがケアしているのは、2600人の個人と800家庭にとどまっている。そのため防止センターの拡充の必要性が指摘されていた。
二つ目の対策は、教育現場での過激思想拡散防止および公共サービスからの過激思想排除策だ。背景には仏北部の職業訓練高校で女性教師を、生徒が肉切り包丁で脅し、教室でイスラム過激派の音楽を強制的に流させた事件などが発生しているからだ。
対策としては、中学・高校の学習指導内容にイスラム聖戦思想の反社会性への理解と非宗教(政教分離)教育の徹底さらに芝居やアニメを使い聖戦主義を流布している実態を理解させることだ。
2015年から2016年の1年間だけでも、聖戦思想への傾倒が疑われ通報された生徒は1848人に上り、その期間に停職となった教師も10人いた。そのため過激思想に染まっていく生徒を判別するための教師のスキル向上のための研修を強化し、政府は今後、公教育では手が届かない無認可の学校への指導も強化するとしている。
過激思想の兆候を見分ける基準として、特定の行動や異性との行動を拒否する、純粋であることに固執する―などを挙げている。これまでも同種の研修が実施され、約15万人の教師が受講しているが、政府は強化する構えだ。
一方、公共サービスからも過激思想を排除する対策が取られる。背景には毎年、軍や警察、仏国鉄職員から数十件の内部通報があり、公務員の中にも過激思想が広がっている現状があるからだ。過激思想に染まる公務員のリストアップと解雇および危険人物リストへの掲載を実施するとしている。また、サッカークラブなど公営のスポーツクラブのインストラクターとして未成年者との接触の多い公務員にも過激思想が広まっており、確認が取れ次第、職員名簿から抹消するとしている。
今後の課題としては、シリアやイラクの戦闘地域から帰還した「イスラム国」(IS)戦士の妻や子供たちのケア、仏国内のイスラム礼拝堂モスク建設を経済支援するISの資金ルートを断ち切る対策も急がれている。マクロン仏大統領は、仏国内のイスラム教団体に対して、聖職者イマムの教育、モスクの監視体制などで新たな対策を今後打ち出す予定だ。











