“赤の砦”ウィーンは渡さない
社民党、27日に市党首選
連邦右派政権への反撃目指す
音楽の都オーストリアの首都ウィーンで今月27日、与党「社会民主党」の臨時党大会が開催され、ホイプル現市長(社民党党首)の後継者を選出する。ウィーン市議会は戦後からこれまで社民党(前社会党)が政権を牛耳ってきた。オーストリア連邦政治では、国民党と極右政党自由党の連立政権が発足したばかりだ。野党に下野した社民党はウィーン市議会で第1党の地位を堅持し、連邦政治で政権奪取可能な政党への刷新を目指している。
(ウィーン・小川 敏)
ミヒャエル・ホイプル市長(68)は1993年にウィーン市社会民主党党首に就任し、翌94年11月にウィーン市長に就任して以来、既に23年間、市長職を務めてきた。その間、社民党筆頭候補者として4年ごとに実施される市議会選に勝利を重ねてきた。連邦レベルの選挙(国民議会選)では、社民党が有権者の支持を失ってきた中で、ウィーン市社民党は例外だった。
そのホイプル市長が退任するのを受け、与党社会民主党は今月27日、後継者選出のため臨時党大会を開催する。市長候補者には住居建築担当市参事会員のミヒャエル・ルドヴィク氏(56)と連邦社民党の院内総務を務めるアンドレアス・シーダー議員(48)の2人が出馬している。
複数の世論調査ではルドヴィク氏が市議会の基盤もあって有利に戦いを進めているが、シーダー議員は連邦議会での豊富な体験を生かし、急迫してきた。ホイプル市長は誰を支持すると正式には支持表明していないが、シーダー氏を推していると言われている。
ウィーン市社民党臨時大会には981人の党員代表が参加する。ウィーン市は東京都と同様、23区から構成されているが、ルドヴィク氏は多くの区党員の支持を固め、労組党員も既に同氏の支持を表明している。一方、シーダー氏は1区など中央区の支持を固めながら、一部の市議会党幹部の応援を受けている、といった具合だ。
なお、臨時党大会で勝利した候補者はホイプル市長の公式の後継者となり、市議会で政権パートナーの「緑の党」の支持を受けて、新市長に就任する運びとなる(今年5月末の予定)。
ウィーン市議会は戦後1945年から今日まで社民党(前社会党)が政権を掌握してきた。だから、ウィーン市は「赤の砦」と呼ばれ、連邦社民党が選挙のたびに得票率を落としてきた中でウィーン市社民党だけが過半数の得票率を占めるなど、最後の赤の砦を死守してきた。ただし、前回の市議会選(2015年)で得票率39・6%に留まったため、「緑の党」と連立政権を樹立し、今日に至る。
ウィーン市は戦後、世界の観光都市の地位を確立するとともに、30以上の国際機関の本部、事務局を誘致し、国際会議の開催地としてその名を広めてきた。一方、市の治安は外国人問題やイスラム教問題でメディアを賑(にぎ)わすこともあるが、他の欧州のメトロポール(首都)と比べれば安全だ。しかし、社民党の長期政権による政情の安定という利点がある一方、市行政の腐敗や怠慢といったマイナスの現象も見られる。
オーストリアでは昨年末、中道右派政党「国民党」と極右政党「自由党」の2党から成るクルツ連立政権が発足した。欧州の政界の右傾化の風を受け、国民党と自由党は同国“最後の赤の砦”ウィーン市の奪取を目指している。
ウィーン市議会選は2020年だが、新市長の誕生を受け、早期選挙の実施が予想されている。シーダー氏は「ウィーン市議会選で再び50%の得票率を獲得できる政党に新生する」と決意を固めている。