「カタルーニャ」問題、新たな欧州の試練に

 スペイン・カタルーニャ州の独立を問う住民投票を実施して1カ月が過ぎた。同州自治権が停止され、独立を主導した州政府幹部が逮捕される中、欧州連合(EU)は一貫して同問題を国内問題として距離を置いてきた。ブレグジットに加え、域内の独立を模索する地域への影響も懸念される欧州は試練に立たされている。
(パリ・安倍雅信)

フランドル、ロンバルディア…
他の独立模索地域を刺激

 スペインからの報道によると、スペイン司法当局は3日、中央政府に罷免されたカタルーニャ自治州のプチデモン前首相に対して、欧州全体で逮捕が可能な「欧州逮捕状」を出した。

プチデモン氏

スペイン東部カタルーニャ自治州のプチデモン前首相=10月31日、ブリュッセル(AFP=時事)

 プチデモン前州首相は先月31日、ベルギー・ブリュッセルで記者会見を開き、欧州連合(EU)の欧州委員会のあるブリュッセルを訪れたのは、カタルーニャ独立への理解を得るのが目的と説明していた。

 ベルギー検察によると、プチデモン前首相と元幹部4人が5日朝、ベルギー警察に出頭し、身柄を拘束されたが、同日夜、15時間後に保釈された。

 これに先立ちスペイン検察は先月30日、反乱罪および扇動罪、さらに公金流用罪でプチデモン氏と前閣僚13人を訴追する方針を発表。裁判所の召還に対して、2日、プチデモン氏と一部の幹部を除き9人が出頭した。同件を扱う裁判所の判事は、出頭した8人の勾留を命じ、1人には5万ユーロ(約665万円)の保釈金の設定を決定した。

 ベルギー司法省はプチデモン氏に対する措置について4日「通常は60日のところ、延長分も含め最終決定までに最大90日間はかかる」との見解を示した。

 カタルーニャ州自治政府は、10月1日にスペイン中央政府が違憲とする独立を問う住民投票を実施し、投票率は50%を下回ったものの90%以上が独立を支持し、10月27日にカタルーニャ自治州議会が一方的に独立宣言を行った。

 中央政府は、即座にプチデモン州首相の罷免と自治権停止で応じた。

 今回の自治権停止で、カタルーニャ州議会の最大勢力、統一会派も分裂する可能性が出てきている。中央政府は、州議会選挙の早期実施を模索し、カタルーニャ州が無政府状態で混乱が拡大することを避けたい構えだ。

 しかし、カタルーニャ独立運動は歴史が長く、特に1939年から約40年間続いたフランコ独裁政権は、独自の言語と文化を持つカタルーニャやバスクを徹底的に弾圧した過去がある。その後も中央政府への不信感は強く、独立国家建設は長年の夢とされた。

 プチデモン前首相は昨年1月の首相指名前の演説で、独立国家建国のプロセスを推し進めることを約束し、18カ月で「カタルーニャ共和国」を建国するとの決意を示した。さらに独立後の独自憲法制定、中央銀行の創設、独自の税制や防衛システムの整備まで、具体的な国家建設のビジョンも語っていた。

 一方、今回のスペイン司法当局による前閣僚らの逮捕と勾留に対して、英国からの独立を模索する英スコットランドのスタージョン首相は遺憾の意を表明した。スコットランドも英国からの独立を問う住民投票を2014年に実施し、英国のEU離脱の期限である2019年に再び行いたいとの意向を示している。

 ただ、欧州メディアや専門家たちがカタルーニャ独立に消極的な分析を行っている背景には、英国のEU離脱問題も影響している。離脱交渉は難航している上、離脱する英国側が巨額の手切れ金を払うことや、数百項目に及ぶ離脱交渉アジェンダを抱え、その困難さを目撃しているからだ。

 プチデモン氏が滞在しているベルギーもフランドル地方の独立問題を抱え、イタリアでは北部ロンバルディア地方の独立問題がくすぶっている。スペインでも、バスク地方は多くの犠牲者を出す独立派の武装グループが長年、テロ活動を続けてきた。

 EUは現在、EU離脱後の欧州の結束強化のため、さまざまな改革に取り組んでいる最中で、欧州全体にくすぶり続ける反EUの極右政党やポピュリズムの台頭にも神経を尖らせている。そのため、EUにとってもカタルーニャ独立問題の処理は注視すべき動きとなっている。