シリアでイランが影響力拡大か

米露の停戦合意にイスラエル懸念

 トランプ米大統領とプーチン露大統領がドイツ北部ハンブルクで7月7日に行った初会談で、内戦の続くシリア南西部での「安全地帯」設置と停戦で合意した。だが、合意は、シリア内のイラン軍などの撤退に触れておらず、イスラエルは停戦後のシリアでのイランの影響力拡大に懸念を強めている。(エルサレム・森田貴裕)

駐留軍の完全撤退求める
周辺諸国の安全保障に脅威

 イスラエル紙ハーレツ(電子版)によると、イスラエル、米国、ロシアは先月、シリア内戦をめぐり、ヨルダンの首都アンマンと欧州で一連の秘密会議を開いた。会議は、イスラエル、米国、ロシアの主要外交官と安全保障関係高官が参加し、シリアのイスラエル国境、ヨルダン国境に安全地帯を設立することに焦点が置かれた。イスラエル側はアンマンの会議で、米国とロシアという二大国がシリアからイラン軍を撤退させることの重要性を認識していないと指摘した。

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シリア南部の反体制派支配地域で、空爆で立ち上ったとみられる煙=6月14日、ダルアー(AFP=時事)

 その数日後、欧州で3カ国による高官会議が開かれた。米露、シリア南部の停戦と安全地帯の設立が、過激派組織「イスラム国」(IS)を掃討し、内戦の範囲を狭め、状況を安定させる実用的かつ戦略的手段であるとみていた。しかし、イスラエル側は、停戦合意後にシリアに残留するイラン軍の影響を考慮し、イラン軍がイスラエル国境から20㌔の範囲だけでなく、シリア国内から完全に撤退することを求めた。さらにイスラエル側は、シリアに駐留するイランの精鋭部隊「革命防衛隊」、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、シーア派民兵にもシリアから撤退させるよう求め、停戦合意の条件を明確に提示した。

 こうした一連の会議を行ったにもかかわらず、停戦合意案には、イスラエル側が指摘したイランやヒズボラなどについて言及はされなかった。

 これを受けて、パリ訪問中だったイスラエルのネタニヤフ首相は7月16日、停戦合意によってシリアでのイランの恒久的駐留が可能になると警告、反対を表明した。

 イスラエルは、シリアでのイラン軍駐留をこのまま許せば、イランがシリアにミサイル基地を建設し、レバノン国境やガザ周辺と同様、ミサイル攻撃にさらされるのではないかと懸念している。また、シリアでのイランの存在は、シリア国内のイスラム教シーア派とスンニ派のバランスをも変え、ヨルダンやエジプトなど近隣のスンニ派諸国の安定を損なう可能性もあるとイスラエルは警告している。

 シリアでのイランの存在を最小限に抑えたいイスラエルのネタニヤフ首相は、ここ数週間にわたり、停戦合意を修正するため、米露両国首脳と頻繁に電話で会談を行ってきた。ロシアのラブロフ外相は7月末、シリアでのイスラエルの安全保障上の懸念を考慮に入れると発表。ティラーソン米国務長官は2日の記者会見で、イランの軍隊がシリアから撤退することがシリア情勢でロシアと協力するための米国の条件だと述べた。

 シリアでのイラン軍駐留を懸念するイスラエルは、対外情報機関モサドのコーエン長官率いるイスラエル代表団をワシントンへ送った。代表団は17日、マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障担当)、中東和平を担当するグリーンブラット外交交渉特別代表率いる米国チームと、イラン軍の駐留について協議。イランがシリアで、陸海空軍基地の建設を計画していることを伝えた。

 イスラエルを敵対視するイランが、シリアに残留することになれば、イスラエルの安全保障にとって脅威となることは間違いなく、シリア停戦をめぐって米露との外交戦が続いている。