ローマ法王、月末にエジプト訪問へ

ISテロ・コプト教犠牲者慰霊

 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコは今月28日から2日間の日程でエジプトの首都カイロを訪問する。エジプトでは9日、同国のキリスト教少数宗派、コプト教会がイスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)のテロ襲撃を受けたばかりだ。フランシスコ法王の安全を懸念する声も高まっている。
(ウィーン・小川敏)

ペテロとマルコ「再会」の意味も
ローマ法王は第1弟子ペテロの後継者
コプト教教皇は「福音書」作者の後継者

 キリスト教最大の祝日に当たる「復活祭」前の最後の日曜日(9日)、エジプト北部タンタ市とアレクサンドリアの2カ所でキリスト教の少数宗派、コプト教会を狙った爆発テロが発生し、40人以上が犠牲、100人以上が負傷した。コプト教会を狙ったテロ事件としては過去最大の犠牲をもたらした。イスラム過激派テロ組織ISは同日、犯行声明を出した。

ローマ法王

ローマ法王・フランシスコ

 フランシスコ法王は同日、エジプトの2件のテロ事件の犠牲者を慰霊するとともに「テロや暴力の種をまく人々や、武器を製造、密売する人々の心を、神が改心させますように」と述べ、テロ事件を非難した。

 ローマ法王のエジプト訪問は2回目となる。故ヨハネ・パウロ2世は2000年2月、カイロを訪問し、市内の競技場で記念礼拝を行い、コプト教徒指導者と会見し、シナイ山を巡礼訪問している。フランシスコ法王のエジプト訪問は、エジプトのシシ大統領、同国のカトリック教会司教会議、キリスト教少数宗派コプト教教皇タワドロス2世、そして同国のイスラム教スンニ派の最高権威機関「アズハル」のタイエブ総長らの招請に応じたものだ。

タワドロス2世

コプト教教皇・タワドロス2世

 2000年の時と今日ではエジプトの政情は全く異なっている。ムバラク政権時代はエジプトは中東で最も安定した国だったが、今日、エジプトは他の中東諸国と同様、2回の革命を体験し、多くの犠牲を払い、その政情は依然、不安定だ。

 チュニジアから始まった中東アラブ諸国の民主化運動(通称・アラブの春)は少数宗派にも少なからず影響を与えた。エジプト最大の少数宗派、コプト教徒はムバラク政権下では黙認されてきたが、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」主導の政権発足後、厳しい弾圧を受けてきた。

タイエブ氏

スンニ派総本山「アズハル」総長タイエブ

 カイロのタハリール広場で民主化運動が勃発した時、コプト派最高指導者シュヌーダ3世総主教(当時)はムバラク大統領、スレイマン副大統領、そしてシャフィク新首相らを支持したこともあって、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」出身のモルシ大統領の政権就任後は、コプト教会への風当たりは強くなっていった。そして2013年の軍の介入時では、イスラム過激派と戦うシシ現大統領派を支持してきた経緯がある。

 フランシスコ法王は2013年5月10日、コプト教会の最高指導者タワドロス2世と初めて会合している。コプト教徒はヘロデ王の迫害を逃れてエジプト入りしたヨセフとマリア、イエスが歩んだ聖地を保護してきた。ちなみに、ローマ法王はイエスの第1弟子ペテロの後継者であり、コプト教会のタワドロス2世は新約聖書「マルコによる福音書」の作者、使徒マルコの後継者に当たる。

 フランシスコ法王のエジプト訪問は、アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3大宗教の出会いであり、ペテロとマルコの再会を意味する。なお、バチカン放送によれば、エジプト当局はイスラム系テログループの襲撃を防ぎ、法王の安全を守るために最大級の警戒態勢を敷いている。