ルペン氏の対抗馬は誰に、混戦模様続く仏次期大統領選
社会党に亀裂
4割が支持未定、無党派層が左右
4月23日の大統領選第1回投票日まであと3週間足らず。フランスでは、いまだ見通しが困難な混戦状況が続いている。第1回投票では右派・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン候補と独立候補のエマニュエル・マクロン候補が第2回投票に進むとの予測がなされているが、社会、共和の既存大政党の亀裂と支持未定者4割が不透明感に拍車を掛けている。
(パリ・安倍雅信)
最新の複数の世論調査で、第1回投票では右派・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン候補と独立候補のエマニュエル・マクロン候補が第2回投票に進むとの見方が強まっている。半面、いまだに誰に投票するか決めかねている有権者が4割に上るという調査結果が出ている。
フランス・テレビジョンとラジオ・フランスによる最新の世論調査によると、第1回投票でルペン候補は25%、マクロン候補は24%で接戦を演じ、共和党のフランソワ・フィヨン候補が18%、そして左翼党のメランション候補、社会党のアモン候補と続いている。
この中でフィヨン候補支持者の84%がフィヨン候補以外には投票しないと答えており、ルペン候補は82%の支持者が必ずルペン氏に投票するとしている。
アモン候補の場合は52%、マクロン候補の場合は47%しか必ず支持候補者に投票すると答えていない。有権者の41%は誰に投票するか決めておらず、無党派層の投票動向が結果を左右するとみられている。
3月29日、社会党のヴァルス前仏首相が中道左派で独立候補のマクロン氏を支持することを表明し、社会党内に激震が走った。ヴァルス氏は「第2回投票にフィヨン氏とルペン氏が残るような状況には立ち合いたくない」とその理由を語った。
社会党予備選でマクロン氏に敗北したヴァルス氏が、社会党を出たマクロン氏を支持する前代未聞の行動は、社会党内の亀裂を決定付けたとも言われている。党内からは「予備選で選ばれた候補者を支持しないのは民主主義を否定した行動」などの声が上がっている。
2012年から政権を担ってきた社会党は、最大の政治課題とされた景気回復、雇用創出、治安対策でオランド仏大統領と共に結果を出せず、国民の失望感は5年間で高まる一方だった。その間、党内対立が深まり、人気の高いマクロン候補が経財相を自ら辞任し、党外に出たのは象徴的出来事だった。
一方、共和党中道右派のフィヨン氏は、妻のペネロプ夫人の公金不正受給などの容疑で正式な司法捜査が始まっており、苦戦を強いられている。フィヨン氏は、移民がイスラム教を持ち込みフランス社会が揺らぐ中、伝統的価値の重視、緊縮財政、治安対策の強化、民間企業活動の支援などを重視する政策を打ち出している。
FNのルペン候補が主張する欧州連合(EU)離脱には強く反対しており、ユーロの保持とEUの政治、経済、外交の強化も主張し、EUの牽引(けんいん)役としての地位確保に重点を置いている。フランス経済界の多くはフィヨン氏を支持しており、妻の疑惑が浮上しなければ最有力候補と言われていた。
ただ、フィヨン氏の妻の問題は個人的とは言えず、既存大政党に蔓延(まんえん)している腐敗と国民は受け止めている。ノルマンディーにある城に住むフィヨン家は裕福なイメージが強いにもかかわらず、フィヨン氏は妻や子供たちを雇用し、公金から高額の報酬を支払わせた。
有権者の大政党離れに乗じて支持を伸ばしてきたルペン候補の支持者には、EU拡大の中でポーランドなど労働力の安い加盟国に生産拠点が移ることで職を失った人々だけでなく、価格競争でビジネスが成り立たなくなった中小企業経営者も増えている。
また、フランス以外で生産されたワインや農産物、海産物が市場を席巻し、立ち行かなくなった生産者の間でもEU離脱を主張するルペン候補を支持する動きは拡大している。FNにとっては英国のEU離脱や保護主義的政策を進めるトランプ米新政権は追い風になっており、説得力を与えている。
一方、マクロン氏は高い支持率を保ち、ヴァルス前首相やバイル元教育相、マドラン元仏財務相など、左派から右派まで幅広い層の大物政治家の支持を集めている。だが、選挙で政治家に選ばれた経験がないほか、大統領就任後、支持した政治家たちをどう束ねていくかも不安視されている。