曲がり角にあえぐ仏政治

次期大統領選、既存大政党離れ加速

 高い失業率と治安問題に苦しむフランスは、史上最低の支持率を更新する左派のオランド大統領への失望感だけでなく、中道右派のサルコジ前政権への失望感も消えていない。そのため、既存政党離れが加速し、欧州連合(EU)離脱を掲げる右派・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首や独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相への支持が高まっている。(パリ・安倍雅信)

難民、治安が焦点に
大きな変化望む有権者

 フランスでは最大野党の中道右派・共和党(LR)の予備選が11月末に実施され、フランソワ・フィヨン元仏首相が党の大統領選正式候補に選ばれた。フィヨン氏は、前政権のサルコジ大統領率いる中道右派政権で首相を務め、サルコジ氏を支え続けた人物だ。

バルス

バルス前首相(AFP=時事)

 オランド大統領は、緊縮財政よりも景気刺激策を優先する公約を掲げ、同時に高額所得者への税率を引き上げる方針を打ち出したが、景気回復にはつながらず、税収も伸び悩み、財政は逼迫(ひっぱく)し、高水準の社会保障制度を維持することも困難となった。途中から首相になったバルス氏が企業寄りとも取れる政策を実施し、伝統的左派から批判を浴びた。

 治安問題では、12年3月の大統領選直前に、仏南西部のミディ=ピレネー地域圏でイスラム聖戦主義に感化された若者が、8人を殺害する連続銃撃事件を起こし、サルコジ政権の治安対策が批判され、オランド氏には追い風となった。

ルペン

右派・国民戦線の(FN)のルペン党首(EPA=時事)

 ところが15年1月の仏風刺週刊紙シャルリ・エブド編集部襲撃テロに始まり、同年11月には、パリ及び郊外で130人が死亡する大規模テロが発生し、さらに今年は7月の革命記念日に南仏ニースで大型トラックによる襲撃テロで86人が犠牲となるテロが発生した。その後、カトリック教会神父の殺害などテロが続いている。

 いずれの容疑者も北アフリカ・マグレブ諸国出身者だったことから、治安対策と移民対策をリンクして考える有権者が増え、現左派政権が移民に甘いとの見方も広まっている。そのため、移民対策で厳しい措置を取ることが期待される国民戦線(FN)や、中道右派のLRへの期待感が高まっている。

 フランスには100年前に定められた政教分離の世俗主義の原則が存在し、政界では表立って自身の信仰を語る政治家は少ない。しかし、アラブ系移民が持ち込んだイスラム教が急激に広まる中、危機感を抱く国民は少なくなく、フィヨン氏のような伝統主義者でないとイスラム系移民に対抗できないと考える有権者も少なくない。

 一方、フィヨン氏が掲げる政策については賛否両論で、健康保険改革、公務員50万人削減、付加価値税率を20%から22%への引き上げ、同性カップルの特別養子縁組や人工授精を認めないなどの政策は、左派を中心に反発が強い。

 仏国営ラジオ局フランスアンフォが今月23日に公表した仏世論調査会社(ODIXA)の世論調査結果では、全回答者の55%が、フィヨン候補よりも独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相が次期大統領にふさわしいと答え、衝撃を与えた。

 社会党所属だったマクロン氏は、投資銀行の役員出身のエリートで、伝統的左派政治とは一線を画し、自由主義的経済政策を掲げ、新風を巻き起こし注目された人物だ。今年4月には左派でも右派でもない政治を目指す政治グループ「進行」を結成し、9月には経財相を辞任、11月には大統領選に向け39歳という若さで立候補を表明した。

 また、確実に支持基盤を伸ばしてきたFNのマリーヌ・ルペン党首は、EU離脱や移民への厳しい対応、出入国のチェック厳格化、テロ対策の強化などで高い支持を集めている。FN創設者で父親のルペン氏と違い、平等社会実現に舵(かじ)を切っていることから、本来の左派の基盤でも支持を伸ばしている。

 一方、左派は1月に予備選を行い、社会党選出の正式候補を決める予定だが、オランド大統領が再選を目指さないことを表明する中、バルス前仏首相を中心に数人が立候補予定だ。だが、左派支持者の中にマクロン氏を支持する有権者が増加していることから、左派の候補者は来年4月の大統領選第1回投票で苦戦が予想されている。

 多くの国民が最優先課題として景気回復による雇用創出を挙げ、次に移民問題、治安対策を挙げている。右派、左派に限らず、既存大政党への不信感は高まる一方なのに対して、フランスに大きな変化をもたらす候補として、マクロン氏やルペン氏の名前が挙がっている。

 ベルリンで今月19日に起きたクリスマスマーケットでのテロを受け、EU全体がテロ対策に動く中、難民・移民政策の見直しを求める声は強まる一方だ。そのため、フランスの次期大統領選挙でも難民・移民政策、治安対策は重要さを増しているといえそうだ。