IS、未成年の勧誘加速
テロ計画関与の逮捕相次ぐ
過激派組織「イスラム国」(IS)のシリアやイラクの戦闘に最も多くの欧州国籍者を送り込んでいるフランスで、テロ計画に関与する未成年者が次々と逮捕されている。社会的疎外感を持つアラブ移民系の未成年者にISの触手が伸びている実態が明らかになってきた。また、キリスト教への新たな攻撃で宗教対立を煽(あお)り始めている。(パリ・安倍雅信)
パリ郊外ルイユ・マルメゾンで9月8日、15歳の少年がテロを実行する恐れがあるとして逮捕された。また、12日にはパリ東部12区で別の15歳の少年が刃物でのテロを準備していた容疑で身柄を拘束された。さらに14日にはパリ東部20区で同じく15歳の少年がテロ行為に加担する恐れがあるとして逮捕され、1週間で3人の未成年者が逮捕された。
9月23日付の仏日刊紙フィガロは当局のデータとして、9月までに仏国内でイスラム過激思想に感化されている可能性がある未成年者は、少なくとも1954人に達していると指摘した。その数は今年1月以来121%増加したことになり、女子の割合が男子より多いとしている。
さらにテロ関連容疑で被疑者となった未成年者は、これまでに37人。法務省が9月末に明らかにした数字では、過激思想に染まった未成年者は600人に達し、現在、勾留されているのは14人(男子11人と女子3人)。また、当局は17人の未成年者がISの戦闘に参加し、死亡者も6人確認されているとしている。
9月に逮捕された3人の未成年者の中には、シリアにいるフランス人ISメンバー、ラシド・カシム容疑者(29)が、スマートフォンのアプリ、テレグラムを通じて、急速に勧誘を拡大し、テロ計画の指示連絡を行っていた痕跡が確認されている。
テレグラムは、動画やテキスト、音声メッセージをアップロードして共有できる暗号化されたスマートフォン用アプリで、カシム容疑者は、パリ郊外マニャンビルで今年6月13日深夜に警官とパートナーが刺殺された事件にも関与が指摘されている。同事件のラロッシ・アバッラ容疑者(25)は、ISの実質的指導者、アブ・バクル・アル・バグダディ容疑者に忠誠を誓っていたことが確認されている。
さらに7月下旬に仏西部サンテティエンヌ・デゥ・ブレのカトリック教会で、ミサ中の神父やシスター、信者数名を人質に立て籠(こ)もり、アメル神父を殺害したアデル・ケルミシュ容疑者(19)らも、カシム容疑者の指示を受けていたとみられる。
同容疑者は、社会から阻害された仏国内の移民系の未成年者を感化するため、テレグラムなどを用い、シリア政府軍による子供の虐殺映像などを見せている。目的は、動画を見て怒りを覚える少年少女に聖戦の正当性を植えつけ、悪を倒すために戦闘に加わることは世界を救うことになると教え込むためだ。
一方、アメル神父殺害や、9月に起きたパリ・ノートルダム大聖堂近くのテロ未遂事件など、ISのテロ攻撃の変化が大きな注目を集めている。フランスの価値観に大きな影響を与えてきたカトリック教会を直接テロ攻撃し、仏国内でイスラム教とキリスト教の宗教対立を煽ろうとしていると受け止められているからだ。
9月4日、パリのノートルダム大聖堂近くでガスボンベを積んだ自動車が放置されているのが発見され、テロは未遂に終わったが、標的が大聖堂近くだったことで、単なる観光地を標的としたテロとは受け止められなかった。
来春予定される仏大統領選挙で、最大野党、共和党からの立候補に意欲を見せるサルコジ前仏大統領は、「当局の監視対象となっている聖戦主義に染まった人物の中で、特に危険度の高い「ファイルS」に載っている者は、テロ防止のために特別施設に収監すべき」だと発言している。大統領選では治安問題が争点となることは確実とみられている。
フランスでは2年半前から、家族や友人など周辺の人々の中から聖戦主義に影響を受ける者が出た場合、緊急の相談窓口を設けている。特に両親などの保護下にある未成年者の急変を知る手がかりにしたいところだが、実際には通報システムは十分に機能していない。
現実には過激思想に影響を受けている者の数が多過ぎる上、パリ郊外マニャンビルで警官を殺害した容疑者など、何人かは当局がいったんは危険人物としながら、その後監視対象リストから外した人物がテロを実行したケースもあり、テロ阻止が容易でない実情が浮かび上がっている。