“寒風”吹き始めた夏の仏

観光産業へのテロ影響に懸念

 テロが相次ぐフランスでは、観光産業への悪影響が懸念されている。安全確保が困難との理由で夏のイベントの多くが中止され、バカンス期の宿泊施設やレストランの収益の落ち込みが予想される。テロはフランスに直接的被害をもたらしているだけでなく、世界第1位の観光大国の座を揺るがす事態に発展するリスクもある。(パリ・安倍雅信)

イベント相次ぎ中止

外国人の客数も落ち込む

 革命記念日の7月14日夜、南仏ニースで発生した大型トラック暴走テロを受け、フランス各地で開催予定のイベントが次々に中止に追い込まれている。85人が死亡し、434人が重軽傷を負った同テロに対して、カズヌーブ仏内相は「テロに屈しない意味では中止したくないが、安全確保を担保できない催し物は中止すべきだ」と語った。

800

7月19日、フランス南部ニースのテロ事件現場をパトロールする兵士(EPA=時事)

 9月14日から18日までニースで開催される予定だったヨーロッパ自転車ロードレース選手権は「安全確保が困難になった」(プラダル同市市長)との理由で中止された。一方、フランス北部リール市は、9月最初の週末に毎年行われる恒例の同市最大の催し物である骨董市「ブラドリー・ド・リール」を今年は行わないことを決めた。

 世界中から200万人以上が毎年集まる欧州最大規模のリールの骨董市は「同市の最重要イベントだが、人々の安全を優先させる」(オブリ同市市長)との判断で開催を断念した。一方、パリでは7月30日から8月21日まで行われる恒例の屋外の映画祭が中止となったほか、7月29日から9月10日まで開催される別の野外映画祭も中止された。

 また、パリのセーヌ川沿いの道をビーチにする「パリ・プラージュ」では、入場時に厳しい荷物検査を実施しており、パリのヴィレット広場で毎年夜に開催されている夜空の星を観察するイベントも中止となった。同イベントはフランス全土430カ所で行われているが、南仏マルセイユのアンドロメダ協会も中止を決めた。

 マルセイユ市では、この2週間に過激派組織「イスラム国」(IS)が同市を標的とするテロを実行するとのビデオメッセージを出しており、同市郊外で8月13日に開催予定の航空ショーを中止した。

 カズヌーブ内相は、多くの夏のイベントが中止された一方で、依然、多くのイベントが全国で開催される予定であることを受け、治安部隊の動員を表明している。地元警察に加え、民間警備会社からの人材投入、1万人の兵士、1万2500人の予備役兵、4000人の警官増員を行うとしている。

 国連世界観光機関(UNWTO)によれば、2015年にフランスを訪れた外国人観光客は、8500万人で2位の米国の7800万人を大きく引き離し1位の座にある。しかし、昨年来続くフランス国内でのテロの影響は徐々に出始めており、ニースのテロ後は昨年同期より外国からフランスに到着する観光客が8・8%減少した(旅行調査機関調べ)。

 さらに今年8月、9月のフランス行きの国際線の予約は、昨年同期より20%減少している。さらに仏観光開発機構によれば、16年上半期の外国人による宿泊予約数は10%落ち込んでおり、8月以降はさらに落ち込むと予想されている。

 フランスの外国人観光客の落ち込みは、宿泊施設やレストラン、カフェに深刻なダメージを与えている。パリのエッフェル塔近くのカフェ・ル・ドームでは、過去10カ月で40%収益を減らしたと報告されており、多くのカフェやレストランは従業員の解雇の検討に入っている。

 パリや南仏コートダジュールのホテル利用客の落ち込みが大きい半面、オーベルニュ、ローヌ・アルプ、ブルターニュでは、7月のホテルの稼働率が8%から14%上がったと報告された。しかし、7月末に仏北部ノルマンディー地方の小さな田舎町サンテティエンヌ=ドュ=ルブレのカトリック教会でテロ襲撃事件が起きて以来、地方都市も安全ではないとの見方が広がっている。

 オランド仏大統領は、19年までに防衛目的で兵士4万人、内務省関連で警官や憲兵隊、治安要員として4万4000人の計8万4000人体制に増強する計画を明らかにしている。今年1月以降、テロ対策局は165人を逮捕し、91人を起訴、63人が実刑判決を受け収監され、25人が司法監視下に置かれている。

 しかし、今後もフランスを標的としたテロの発生の可能性は高いとみられており、非常事態宣言も来年1月まで延長された。そのため、国の重要産業の一つである観光産業は、大きなリスクにさらされている。