国際社会は対露圧力継続を


 ウクライナ東部で政府軍と親露派の停戦が発効した。だが、一部では戦闘が続いている。恒久的な停戦のため、国際社会はロシアへの圧力を継続し、ウクライナに侵入したロシア軍を撤退させるべきだ。

 停戦合意後も戦闘続く

 停戦合意後も東部の一部では戦闘が続いており、ドネツク州マリウポリでは砲撃によって住民の女性1人が死亡した。双方は非難合戦を繰り広げているが、停戦が順守されるか懸念される。政府軍と親露派の戦闘によって約5カ月で民間人を含む2500人以上が死亡している。これ以上の犠牲者を出すことがあってはならない。

 ロシアと欧州安保協力機構(OSCE)を含めた和平協議はベラルーシの首都ミンスクで開かれた。合意文書は12項目にわたるもので「違法な武装部隊、兵器、民兵のウクライナ領撤退」を求めている。

 ただ、親露派は「自らに合法性があり、政府軍こそが違法な武装部隊だ」と主張し、撤退に応じる気配はない。「違法な武装部隊」の解釈をめぐっては、4月の米露などジュネーブ4者協議の合意でも武装解除がうたわれたが、親露派は同様の主張で拒否したため、緊張緩和につながらなかった。

 さらに、合意文書は「ドネツク、ルガンスク両州の特定地域」に暫定的自治権を与える「特別な地位」に関する法律を制定するとしている。ウクライナのポロシェンコ政権が、東部のロシア系住民に配慮して地方分権を進めることは必要だろう。

 しかし、ロシアはウクライナへの影響力を保持するために連邦制の導入を求めている。東部奪還を目指した政府軍はロシア軍の侵入によって一転、劣勢を強いられた。崩壊寸前の国内経済を立て直すためにも、ポロシェンコ大統領は停戦に合意せざるを得なかった経緯がある。

 一方、オバマ米大統領はウクライナ政府と親露派の停戦は繰り返し破られてきたと指摘。今回の停戦に関しても懐疑的な見方を示した。

 米国防総省によれば、ウクライナとの国境付近に展開しているロシア軍は1万人以上の規模を維持し、野戦砲やロケットの集積によって、かつてないほどの攻撃力を備えている。恒久的な停戦のためには、親露派の後ろ盾となっているロシアに圧力を掛け続け、ウクライナに侵入したロシア軍を撤退させる必要がある。

 英国で開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、有事に機敏に対応するために2日以内に数千人規模で展開可能な「緊急部隊」を創設することで合意した。ロシアがウクライナに軍事的な揺さぶりを仕掛けたことによって、ロシアに地理的に近いバルトや東欧諸国を中心に強い危機感が台頭したためだ。

 NATO加盟国は首脳会議後、黒海でウクライナと海上合同軍事演習「シー・ブリーズ」を行った。

 クリミア併合撤回させよ

 ロシアがウクライナに侵入した軍を撤退させるだけでなく、ウクライナ南部クリミア半島の併合を撤回するまで、国際社会は圧力を緩めるべきではない。

(9月9日付社説)