米依存脱却に動く欧州、アフガン混乱が引き金
欧州防衛軍の創設を模索
欧州は、今年1月に誕生したバイデン米政権に大きな期待を寄せた。だが、その期待は大混乱を招いたアフガニスタンからの撤退で打ち砕かれた。欧州は今、米国依存の安全保障政策の本格的な見直しに舵(かじ)を切ろうとしている。
(パリ・安倍雅信)
世界の指導的立場で西洋文明を繁栄させてきた米国と欧州列強国は第2次世界大戦終結後、北大西洋条約機構(NATO)の軍事同盟を構築し、冷戦を乗り切った。ところが、バイデン政権のアフガン撤退の大失態により、欧州の主要NATO加盟国は失望を隠さず、米依存脱却に動いている。
英BBC放送は「撤退時に米国と同盟国の調整不足が表面化し、全体の4分の3を占める非米国民の避難で国際的な混乱を招いた」と指摘。正確な数は未(いま)だ不明だが、アフガンにいた外国人は非米国民の方が多かったことは確かで、日本人を含め多くの外国人が取り残されている。
第2次世界大戦以来、アフガンで初めて主要戦闘任務に加わったドイツでは、軍駐留の終わり方をめぐり衝撃が走った。退任するメルケル首相の後任候補である保守与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のアルミン・ラシェット党首は、米国の撤退について「NATO創設以来経験した最大の失態」と不快感を露(あら)わにした。
フランスでも、ナタリー・ロワゾー元欧州問題担当相が「多くの欧州連合(EU)加盟国はトランプ前米政権に否定的だった。トランプ氏が去るまで待つべきだと考え、そうすれば元の欧米関係に戻るだろうと考えた。だが、もう元には戻らないことに気づかされた。それをEUは明確に自覚することを願っている」と述べた。
アフガン危機の衝撃波が火を付けたのは、米国に依存する防衛分野の再検討議論だ。仏紙ル・モンドは、フランスのクレマン・ボーヌ欧州問題担当相が「(防衛に関して)より大きな自治が必要であるということが徐々に認識されている」と述べたと伝えている。
マクロン仏大統領は2018年末、トランプ氏がNATOの欧州加盟国に軍事支出拡大を要求したことに対し、NATOが米国の国益に適っていないことや、欧州防衛で米国を頼りにできるのか疑問を呈し、欧州軍の創設を訴えた。
メルケル独首相も当時、「欧州の防衛で米国を頼りにできるのか」と公然と語り、マクロン氏に同調した。ただ、クランプカレンバウアー国防相は今月2日、危機に迅速に派遣できる有志連合軍を可能にするよう呼び掛けた。これはフランスとは異なる見解でもある。
EU外相に相当するボレル外交安全保障上級代表は「歴史を進める出来事が時折起こる。アフガンはその一つだと考える」と述べ、EU加盟国が11月までにEU独自部隊創設計画を策定することに期待を示した。具体的にはNATOとは別に、即時出動できる5000人規模の初動部隊を創設する、というものだ。
アフガンの教訓は、NATOの中心にいる米国が欧州兵士の生死を左右するアフガン撤退を一方的に決定し、欧州は従うしかない状況だったことだ。欧州首脳は撤退時期について「米国次第」と繰り返し、米国とは別に撤退時期を延ばすこともできなかった。
マクロン氏はかつて、米国が1987年に締結された中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱したことに伴う「主たる犠牲者」は欧州との認識を示した。地理的にロシアから離れた米国は欧州防衛を考慮せず、ロシアとの政治的やり取りで離脱を決めたと批判した。その後もNATOの再考を何度も主張してきた。
共同防衛に懐疑的だった英国がEUから離脱した今、欧州軍創設は現実味を帯びてきた。アフガンショックは、その引き金になっている。
ただ、ロシアに近い中・東欧と西欧諸国では捉え方は違う。米国の大きな核の傘に入りたい中東欧にとってNATOは重要な存在だ。欧州軍創設で米国を怒らせることを避けたい加盟国も少なくない。
一体感に欠けるEUの外交安全保障政策は、アフガンショックでどこに向かうのか、注目される。