包括的核実験禁止条約採択から25年、発効の見通し依然立たず
米中など8カ国が未批准
核爆発を伴う核実験を禁止した包括的核実験禁止条約(CTBT)が1996年9月の国連総会で採択されてから25年を迎える。ウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)は8月1日に、オーストラリアの外務貿易省保障措置・不拡散事務局長だったロバート・フロイド氏が新事務局長に就任したばかりだ。条約の早期発効を目指すCTBTOの現状を報告する。
(ウィーン・小川 敏)
リビア崩壊の前例怖れ 北朝鮮署名・批准拒否
CTBTは8月現在、署名国が185カ国、批准国は170カ国に上る。だが、条約発効には核開発能力を有する44カ国の署名・批准が条件となっている。その44カ国のうち署名・批准したのは36カ国で、発効には残る8カ国の署名・批准が必要だ。
具体的には、米国、中国、インド、パキスタン、イラン、エジプト、イスラエル、北朝鮮の8カ国が条約発効を阻止している。このうち、過去6回の核実験を実施した北朝鮮は未署名だ。
米国はクリントン政権時代の1999年10月、上院が批准を否決した。核全廃を主張して2009年にノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領も、批准への動きはなかった。
一方、中国共産党政権は過去、審議中だと説明してきた。習近平国家主席は核兵器の使用可能な兵器化を推進しており、批准は難しい。インドとパキスタン両国は一方が批准すれば、他方が批准に応じる可能性はあり得る。
問題はイランだ。同国で今月、穏健派のロウハニ大統領に代わって保守強硬派のライシ師が新大統領に就任した。ライシ新大統領の新閣僚が明らかになったが、イラン核合意の立役者だったザリフ氏は外相から外され、反欧米派のアブドラヒアン元外務次官が後任に就いた。この結果、ウィーンで開始されたイラン核協議の進展に陰りが出てきた。
イラン核協議は国連常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国とイランとの間で13年間続けられた末、15年7月に包括的共同行動計画(JCPOA)が締結されたが、トランプ前米大統領が18年5月、イラン核合意は不十分として離脱を表明した。バイデン政権は核合意に復帰する意向を表明。それを受け、イランと6カ国間で交渉がスタートしたばかりだ。
イスラエルのベニー・ガンツ国防相は4日、「イランはJCPOAの内容に全て違反している。イランは10週間以内に核兵器用の核物質を生産できる」と警告した。イスラエルは核保有国と受け取られているが、正式には核保有を認めていない。
最後に、北朝鮮の場合、平壌は米国との非核化交渉とは関係なく、核兵器を破棄する考えはない。必要ならば、核実験もするだろう。他の7カ国が批准したとしても、北朝鮮は署名も批准も拒否するはずだ。金正恩体制は、リビアのカダフィ政権が欧米からのオファーを受け、核開発を放棄した後、崩壊したことを知っている。だから、リビアの再現を絶対に回避しようとするだろう。
CTBTOは現在、国際監視制度(IMS)を構築中で、世界各地で既に302カ所の監視施設が連結されている。IMSは核爆発を探知するネットワークで、全世界に4種類の観測所(地震観測所、微気圧振動観測所、水中音波観測所、放射性接種観測所)を設置し、監視している。IMSは過去、インドネシアの大津波など自然災害の対策にも大きく貢献してきた。
客観的に見て、条約の早期発効の可能性は限りなくゼロに近い。それを打破するためには、発効要件国を明記した条約第14条の改正以外にないが、条約の改正を実施した場合、全ての署名・批准は振り出しに戻ることになる。