メダル数を懸念する仏、次期五輪開催に期待と課題


 フランスのパリ市庁舎の前庭には五輪旗が9日から掲げられた。仏日刊紙ルモンドは、10日付の社説で2024年7月26日から開催されるパリ五輪まで「3年しか残っていないが、課題も多い」としている。1924年以来の夏季五輪開催となり、1896年に始まった近代五輪では冬季五輪を含め5回目となる。

8日、次期夏季開五輪開催地のパリで、東京五輪閉会式に合わせて行われた曲芸飛行と集まった人々(EPA時事)

8日、次期夏季開五輪開催地のパリで、東京五輪閉会式に合わせて行われた曲芸飛行と集まった人々(EPA時事)

 同紙は9日付の東京五輪の総括記事で、過去の五輪はアイコンとともに人々に記憶されており、「1984年のロサンゼルス五輪では陸上のカール・ルイス米選手、92年のバルセロナ五輪では米バスケットボールのドリームチーム、最近ではロンドンや北京、リオ五輪で、かつてないほど世界のスプリントを超越した自称“生きた伝説”のジャマイカのウサイン・ボルト選手がいる」と指摘している。

 では、コロナ禍の公衆衛生危機の中で開催された東京五輪はどうかといえば、「最も印象的な人物は米体操のシモーン・バイルス選手の競技以外の彼女の行動が際立った」とし、「ヒーローはいなかったが歴史に残る五輪」と評した。有名アスリートのバイルス選手が自分の精神状態を優先し、団体決勝などを棄権する姿勢は世界に大きな波紋を広げ、アスリートたちがいかに重圧の中で競技に臨んでいるかを知らしめた五輪だったと分析した。

 一方、フランスは東京五輪前にマクロン大統領が意欲を見せたメダル獲得40個の目標は33個に終わり、メダル順位では世界8番目。「北京五輪以来、欧州の主要なオリンピック大国であると主張している英国(65個のメダル獲得)に大きく後れを取った」と悔しさをにじませた。

 加えて、「英国のスポーツモデルは、エリート(のアスリート)によってメダルを獲得したが、フランス人は全ての人のためのスポーツの実践を優先してきた」とし、プロ化が進むスポーツ界でメダル獲得は難しいという教訓を東京五輪は残したと指摘した。

 パリ五輪では、パリ周辺で最も治安の悪い問題地区に意図的に五輪施設を集中させている。コストを抑えるためにパリ中心部の大型美術展示会場のグランパレを含む建物が競技に使用される。ルモンド紙は「パリ五輪は、国とその多様性を世界に示すだけでなく、健康不安、分裂、衰退に苦しむフランス人を鼓舞する特別な機会だ」と期待を込める。

 その一方で、「パリ大会の成功は、尊厳を持ってアスリートらを迎える予定のプロジェクトが、フランスのアスリートたちもその場で輝くために適切な時期に準備を完了するのが前提だ」とした上で、パリ中心部と郊外を結ぶ新たな地下鉄建設などが大幅に遅れていることを問題視した。

 さらに、パリ五輪は「何千ものスポーツ協会にとって新鮮な空気を吹き込む機会だ」としながらも、東京五輪が示したような開催国特需で大量のメダル獲得ができるかどうかは怪しいとしている。

 しかし、フランスが実践してきた学校や町のスポーツクラブを通してスポーツを広く浸透させた貢献者である体育教師やスポーツのインストラクターたちにとっては、パリ五輪は大きな力になるはずだと同紙は期待した。

(パリ・安倍雅信)