コロナ禍長引けばEU崩壊
悲観的な発言域内から出始める
新型コロナウイルスが他の欧州諸国に先駆けて拡大した欧州南部イタリア、スペインは逼迫する財政難に対して欧州連合(EU)ユーロ圏によるコロナ債発効を要請している。南欧に不信感を抱く欧州北部のドイツやオランダが頭を縦に振らない中、南北間の亀裂からEU存続の危うさを指摘する悲観論もEU内に出始めている。
(パリ・安倍雅信)
イタリア・スペイン支援に反対
北部が南部に不信感増幅
EUのユーロ圏財務相会合(ユーログループ)は9日、新型コロナウイルス対策で封鎖措置などが関係加盟国でとられることによる経済的ダメージへの対応が話し合われ、総額5400億ユーロ(約64兆円)規模の対策で合意した。財源はユーロ圏の債務危機対策基金、欧州安定機構(ESM)の与信枠活用で各国を財政支援するのが柱だ。
一方、同種の会合で浮上している、より大規模な対策資金確保のため、経済ダメージが大きいイタリアやスペインが求めるユーロ共同債、通称「コロナ債」と呼ばれる共通債の導入については、ドイツやオランダが反対し、結論は23日開催のEU首脳会議に持ち越された。合意できなかった理由は、債務に苦しむイタリアやスペインが、コロナ禍への経済対策ではなく、債務軽減という異なる目的に使うことを懸念してのことだ。
イタリアは10日に全国の封鎖措置を一部の店舗などで解除する一方、封鎖措置そのものは5月3日まで延長することを表明した。同国コンテ首相は、EUがコロナ債導入に消極的なことを批判し、9日の英BBCテレビのインタビューでも「EUが十分な対策を講じなければ、(EU存続は)危険に晒(さら)される。そのリスクは本物だ」と不満を訴えた。
イタリアの新型コロナウイルスの感染死者数は1万9000人に上り、欧州一で米国に次いで世界で2番目の多さ。すでに100人以上の医者、90人以上の聖職者も死亡しており、医療崩壊の最中にある。伊政府が全国封鎖に踏み切ったのは3月9日、同21日からは生活必需品を除き、全ての企業生産活動を今月13日まで停止すると発表したが、それも延長の方針で経済ダメージは甚大だ。
コンテ首相は「第2次世界大戦以降最大の試練」と語り、ドイツのメルケル首相も同様の認識を示した。スペインのサンチェス首相も欧州にとって「第2次大戦以来最悪の危機」と呼び、ポルトガルのコスタ首相は「必要な措置を取らなければEUは終わりだ」と悲観論を展開、フランスのマクロン大統領も同様の警告を行っている。
かつて欧州統合の牽引(けんいん)役として1985年から10年間EUの欧州委員会を率いたドロール元委員長は、EUの「生死にかかわる危険」な事態と警告を発している。米ウォールストリートジャーナルは9日付の記事で、「欧州の古い分断の蓋を開けたコロナウイルス」と題して、「EUの破綻を予言するのは英国と米国にいる右派のEU懐疑派だったが、この数週間、欧州のエスタブリッシュメント(指導者層)の中枢からも悲観的な発言が出始めている」と指摘した。
EUでは2008年のリーマンショックに続く10年のギリシャ財政危機で、スペイン、イタリアが財政破綻予備軍として懸念された。そのため、近年、北欧系やドイツ系の北部諸国がギリシャやラテン系のイタリア、スペインなどの南部諸国に対して強い不信感を増幅させている。
英国が愛想を尽かしてEU離脱に走ったのも、南欧の経済運営への不信感が要因として挙げられている。ドイツとその周辺諸国は07年から数年間続いた景気後退で南部諸国を救援したが思わしい成果を得られず強い不満を引きずっている。
無論、EU加盟国首脳間では、「戦時と同じ状況」と受け止め、EUが一丸となって対処するという点では異論は出ていない。そのためユーロ圏に科してきた財政赤字の上限を解除することに同意している。
それでも支援が足らないとするイタリアやスペイン国民は、北部諸国の緊急融資の条件をめぐる要求を「冷たい」と受け止めており、ブレグジットで鎮静化していたEU離脱のドミノ現象や反EUの自国重視のポピュリズムが台頭し始めている。コロナ禍が長期化すれば、EU崩壊の悲観論は現実味を増す可能性は高い。






