「中国が目指すは世界覇権」 バノン氏


米大統領の元側近バノン氏 都内で講演

 トランプ米政権で「影の大統領」と呼ばれたスティーブ・バノン前大統領首席戦略官・上級顧問が15日、都内で中国をテーマに講演した。ホワイトハウスから追い出された形のバノン氏だが、かつての右腕としてトランプ氏とは基本的な世界観を共有している。政権屈指の対中強硬派だったバノン氏の発言は、トランプ氏の対中観を理解する上で示唆に富む内容だ。

スティーブ・バノン氏

5日、都内で講演するスティーブ・バノン前米大統領首席戦略官・上級顧問(早川俊行撮影)

 「根本的な戦略ミスだ」――。在外中国民主化活動家らが集まる会合で講演したバノン氏が、痛烈な批判の矛先を向けたのは、対中政策を主導してきた米国のエリート層だ。

 バノン氏は「ニクソン政権以来、米国のエリートたちは、中国が豊かになれば、自由な民主国家になるとの誤った前提に基づいていた」と主張。「中国指導部にはルールに基づく戦後の国際秩序に加わる意図はない」にもかかわらず、中国を支援し、台頭を許したのは致命的な誤りだったと断じた。

 中国共産党大会で習近平総書記(国家主席)が3時間半にわたる演説を行ったが、バノン氏は「2035年までに世界一の経済大国、50年までに世界の覇権国となるプランを示した」とし、「世界に対する警鐘だ」と強く警戒。中国が進める「一帯一路」構想についても、マッキンダー、マハン、スパイクマンの三つの地政学理論を統合したものであり、世界覇権を握る戦略との見方を示した。

 トランプ政権では、バノン氏を筆頭とする対中強硬派と、コーン国家経済会議委員長、大統領の娘婿クシュナー上級顧問ら対中穏健派との路線対立が鮮明になっていた。バノン氏が解任されたことで対中穏健派の影響力が強まる可能性があるが、バノン氏は演説でトランプ氏を批判する発言は一切せず、むしろ対中政策を正しい方向に転換しようとしているのがトランプ氏だと称賛した。

 トランプ氏は今回の訪中で中国に強硬姿勢を示すことはなかったが、バノン氏は「トランプ氏は世界で最も賢い交渉人だ。対決的な私と違い、個人的関係を重視するのがトランプ氏のスタイルだ。関与しながら変化を始めていくプランがあると信じている」と評価した。

 バノン氏はまた、昨年の大統領選でトランプ氏が当選したのは中国と大きな関係があると指摘。中国に雇用を奪われ取り残された労働者層が「トランプ氏は全力で米国を再び偉大にしようとしていると理解した」と主張した。

(編集委員・早川俊行)