海面上昇、故郷なくなる不安-キリバス共和国名誉領事 ケンタロ・オノさん
エルニーニョで浸水被害頻発
キリバス共和国名誉領事 ケンタロ・オノさんに聞く
――キリバス共和国はどんなところか。
大洋州の地図を見ると、青(い海)と点線(国の境界線)しか見られないほどだが、そこには海からの恵みによって生かされてきたさまざまな島、国々がある。キリバスはその一つで、東西5000㌔の領域、全部で33の島からなっている。日本との関係で言えば、意外と知られていないが、日本のカツオ一本釣り漁船の乗組員の半数はキリバスの人々で構成されている。
――海面上昇による被害は、地形によるところが大きいか。
一つ一つの島の長さは数十㌔と長いが、幅は広いところでも数百㍍しかない。海抜は平均で2㍍前後しかなく、巨大な波が押し寄せ、海水があふれるとひとたまりもない。
また、国土に山はなく、従って川がないので、生活用水は地下水だけに頼っている。しかし海岸線が浸食され土地が削られることによって、地下水の量も減ってきている。その上、塩分濃度も上がり、地下の淡水に潮水が入り、飲料水や農作物も塩害でダメになる傾向にある。国土がなくなり住めなくなる前に、生活用水の摂取が困難になるという危惧がある。恵みを与えてくれる海は、今危機をもたらす結果になっている。
――海の環境はどうか。
地球温暖化によって海面上昇だけでなく、海水の温度も上がっている。キリバス周辺は、サンゴを中心に海洋動物たちが貴重な生態系をおりなしてきたが、今、サンゴの「白化」(注・白化して光合成ができなくなったサンゴは死滅する)という事態が起きている。海水温上昇が影響していることは間違いないと思う。海の生態系も変わってきており、今まで取れていた魚がいなくなったり、また逆の場合もある。
――去年、大きなサイクロンがあったが、その影響は。
赤道直下では地球の引力と自転の関係で台風はないが、去年3月には、その後台風に発達した低気圧が停滞し今までにない大きな被害を受けた。従来、このような被害は起こりにくかったが、一昨年から去年にかけて勢力の強い熱帯低気圧が頻発し、大きな影響を受けている。これも異常気象によるものだ。
これまで降雨が多いのは2月だったが、今は時期を選ばず雨が降り、大潮が襲ってきている。多雨と干ばつと、気象の両極化が起こっている。そもそも台風などの自然災害の備えがあまりない国なので、その分、人々の恐怖度も大きい。
また去年は史上最強のエルニーニョが発生し、長雨が続いて毎月のように浸水が起き、インフラに被害が出て惨憺たる状況だ。土地の幅が狭いし高台もないので、人々は逃げる場所が限られ、その場にいたら本当に怖いと思う。
――海面上昇に対するキリバス国民の一般的な受け止め方は。
明らかに今までなかった、良くないことが起きているということは分かっている。しかし、考えてみてください。何十年か後に、あなた(記者)の故郷がなくなるということがどういうことか想像できますか、できないでしょう。それと全く同じで、キリバス国民にとって国がなくなってしまうというのは想像すらできないことです。
――国際社会に何を願うか。
国民は誰もこの国を離れたくはない。しかし最悪、そうなった場合、『尊厳ある移民』として少なくても、受け入れてくれる国々の負担を最小限にとどめようと思っている。そのため国を挙げて、教育、職業訓練を行い有為な人材を育てようという計画が進んでいる。今、オーストラリアがその協力をしてくれているが、他の国々にも同じことをお願いしたい。
また各国が二酸化炭素(CO2)削減に取り組むのは当然のことだが、途上国支援についての問題点も指摘したい。例えば、国連気候変動枠組み条約に基づく「緑の気候基金」が設立されたが、援助を最も必要としている私たちが、それを引き出すのはかなりむつかしい。資金の流れを明確にしスムーズにする取り組みをしてほしい。
キリバスをはじめツバルやマーシャルなど太平洋諸国で起こっていることは、地球全体の気象変動によるもので、我々はたまたまその最前線にいるということだ。CO2排出による地球温暖化について、直接的な責任はないものの、最初に影響を受けいちばん大きな被害を受けている。正直悔しい思いだ。
――日本にできることは何か。
日本からキリバスへは片道3日間の旅程という遠隔地で、日本には馴染みが少ない国だ。しかし日本は同じ太平洋の島国であり、お兄さんのような立場だ。だからまず、キリバスの現状を知って、一緒に何か考えてみませんかという提案をしている。当地へは、2008年から技術協力などで青年海外協力隊が派遣されており、彼らをコアにキリバスの良さをもっと広く知らせていく努力をしていきたい。















