今世紀末、海面上昇が82センチ 各国とも異常気象対策に大苦心


キリバス「最悪の事態」に対処

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2009年、大潮と低気圧の影響で、海岸線が崩れたキリバス共和国の首都タラワ市の海岸。海岸に生えていたヤシの木の多くが、海側に倒れているのが見える(ケンタロ・オノ同国名誉領事撮影)

 もし自国の領土が海の中に沈み込んでなくなってしまったら!? そんな悪夢の日が、現実に迫っている――。

 国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2014年発表した第5次評価報告書によると、世界の平均海面水位は、20世紀に入ってから2010年までの間に19㌢上昇した。最も温暖化が進んだ場合、今世紀末までに平均海面水位は最大で82㌢上がるという。

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高潮により破壊された護岸ブロック(ケンタロ・オノ同国名誉領事撮影)

 海面上昇は、地球温暖化に端を発する南極とグリーンランドの氷床の融解と海水の膨張だ。すでにハイペースになっている海面上昇のペースが、さらに加速すると予想される。

 海面上昇による影響は、海抜が低い都市として知られるベネチアなどだけでなく、海岸沿いに海抜以下の地域(いわゆる海抜ゼロメートル地帯)を有する諸国や都市にとっても重要課題となっている。

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タラワ市内でも、浸水被害が続いている(ケンタロ・オノ同国名誉領事撮影)

 とりわけ、南太平洋やインド洋に浮かぶ小さな島国では、国の存亡にかかわる深刻な問題だ。仮に海面が1㍍上昇すると、南太平洋のマーシャル諸島は国土の80%が沈没すると予測されている。太平洋の島嶼国の一つ、キリバス共和国(人口約11万人)のアノテ・トン大統領は、最悪の事態に備え、フィジー共和国に約22平方㌔㍍の土地を約930万オーストラリア㌦(約8億8000万円)で購入した。

南太平洋島嶼国の実情

住民の一部は移住

 ツバル共和国 太平洋のポリネシアに浮かぶ島国ツバル。海面上昇の被害の最前線にあり、国土消滅の危機に直面している。首都のあるファンガファレ島の長さは約1㌔だが、幅は広いところでわずか700㍍程度、狭いところでは10㍍ほどしかない。

 ハワイとオーストラリアの中間に位置し、近くにはサモアやフィジーがある。人口は約1万人で、独立国としてはバチカン市国に次ぐ人口の少ない国だ。首都はフナフティ。

 広大なサンゴ礁の広がるグレート・バリア・リーフでは、サンゴの白化が進行中だ。ツバルはサンゴ礁でできた島々からなっており、同じくサンゴに被害が出ている。

 平均海抜2㍍、一番高い所でも約5㍍しかない。国土消滅が現実的になった場合には、島民はニュージーランドなどに避難することになっていて、住民の一部はすでに移住を始めている。

熱中症増加に懸念

 マーシャル諸島共和国 人口約2万人。ミニ国家の一つであり、「真珠の首飾り」とも呼ばれるマーシャル諸島全域を領土とする。ミクロネシア連邦の東、キリバスの北に位置する。

 海面上昇で、陸地だった部分が波にさらわれ浸食している。地元の人たちは石を積んで防ごうとしているが、焼け石に水だ。高潮による被害が大きくなり、潮が満ちると海水が住宅や道路に入り込んでいる。さらに、海水が田畑や井戸にしみ込み作物が育たない。また飲み水が塩水となるなど生活に大きな影響が出ている。

 海面上昇だけでなく、暴風雨などの異常気象による被害も懸念される。高潮の危険性も高まり、浸水が発生することも今後多くなるのではないかと、政府関係者は見ている。日本でも知られる美しいセブンティーンビーチは、押し寄せた波で、ヤシの林が無惨にえぐり取られている。このビーチは海面上昇による波の浸食で数年前から様子が一変してしまった。

 また地球温暖化で気温が上昇しており、熱射病などの熱中症が増えることも懸念されている。ほぼ外出できない状態になるほどの高温の可能性も指摘される。

高波の後で疫病も発生

 サモア独立国 サモアは、ポリネシアで2番目に島の数の多い群島で、人口は約19万人。温暖化の影響で、サイクロンの上陸頻度が増え、高波のあとに疫病の発生が見られる。

実質的な被害は一部

 ミクロネシア連邦 4州607島からなり、人口約10万人。主要島のコスラエ、ポンペイ、チューク、ヤップに人口が集中している。

 いずれも山の島で、首都のあるポンペイ島は高さ約780㍍。そのため、低いサンゴ礁の島であるツバルのように深刻ではない。実質的な被害を受けるのは、一部の小さな島だと言われる。