「力の空白」を突く中国、日米機軸に地域連携が緊要

緊張 南シナ海(5)

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中国が南シナ海で進める人工島造成への反対で連携を確認する安倍晋三首相(左)とオバマ米大統領=19日、マニラ市内(AFP=時事)

 安倍晋三首相は19日、ともにアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加のためフィリピン訪問中のオバマ米大統領と会談し、「盤石な日米同盟をアジア太平洋、国際社会の平和、安定、繁栄のために一層活用していきたい」と伝え、中国が南シナ海で進める人工島造成への反対で日米が連携することを確認した。

 中国が狙う南シナ海の内海化政策について留意しなければならない点は、中国は「力の空白」は絶対に見逃さないということだ。

 中国がベトナムからパラセル(西沙)諸島を占領した1974年当時は、ベトナム戦争で米軍が撤退し、南ベトナム政府の敗北が決定的になった時だ。また、91年、当時米国外の米軍基地としては最大規模の空軍および海軍基地がフィリピンに返還され、翌年、米軍は撤退した。中国はすかさずフィリピンが実効支配していたミスチーフ礁などの岩礁を占拠し、人工島を建設している。

 このとき米国は、ミスチーフ礁を米比相互防衛条約の適用範囲外とし、中国を非難はしたが具体的な対応は回避し続けた。米国債の主要保有国であり、重要な貿易相手国である中国との関係悪化を懸念したからだ。

 しかし、これまで第三国間の領土紛争に介入しないという立場を取ってきた米国も、中国の露骨な占領政策に対し、2014年12月、米国務省が「(中国が南シナ海における領有権を記す)九段線は、国際海洋法に合致しない」とした報告書を発表し、方針転換。オバマ大統領は、ようやく重い腰を上げ、10月27日、スプラトリー諸島にイージス艦「ラッセン」を派遣し、「航行の自由作戦」を実行した。

 南シナ海の内海化について、拓殖大学名誉教授の茅原郁生氏は「岩礁埋め立てに中国のかなり強い意欲を見る」と強調、「東シナ海は第1列島線内の海域であり、近海防衛戦略の上から中国の勢力圏にしようとしている」と分析する。南シナ海の動きは東シナ海にも連動しているということだ。つまり、中国の次の狙いは、尖閣諸島(沖縄県石垣市)がある東シナ海だと見てよい。

 尖閣諸島をめぐっては、中国はチベットや台湾などの領有権を指す「核心的利益」という表現を使い始めた。中国国内に目を転ずれば、経済成長の陰りや政治的自由の欠如に伴う諸矛盾への不満がネットを通じて国民に拡散している。習近平政権にとって共産党執政への国民の不信や批判をかわすために「尖閣」は格好のテーマでもある。一時の激しい挑発行為は影を潜めているが、中国は絶対に尖閣諸島を諦めていない。

 万一、尖閣諸島が中国の手に落ちれば、最後に、台湾が併合され、中国は南シナ海、東シナ海を完全に囲い込むことになり、「内海化」は完成する。もしこれが実現すれば、経済的影響にとどまらず、我が国の安全保障政策が根底から覆されるような深刻な脅威となる。

 これを阻止するためには、この海域における米軍の強力なプレゼンス(存在)が絶対条件だ。オバマ大統領は、19日の日米首脳会談で「航行の自由作戦」について、「日常的に実施していきたい」と、継続の意志を表明。これに対し安倍首相は「南シナ海での自衛隊活動は、情勢が日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」と明言、同作戦への自衛艦派遣の可能性を示唆した。

 先の国会で成立した安保法制は、自衛隊と米軍の共同対処力を強化し、この海域の周辺諸国との安全保障協力の道を開いた。日米同盟を機軸としフィリピン、ベトナムの沿岸諸国のほか、オーストラリア、韓国、インドなどとの連携強化も緊要だ。

 また、尖閣諸島防衛をめぐる新安保法の制定について、茅原氏は「警察権を超える場合の自衛隊の行動が正当化されたことは大きな対中抑止力になる」と評価。グレーゾーン事態に有効に対処する態勢の整備も急務だ。

(政治部・小松勝彦)

=終わり=