鄧小平以来の内海計画 中国、核戦力で覇権狙う
緊張 南シナ海(4)
中国は、南シナ海の島しょの領有権と海底資源の排他的権利を一方的に主張しながら、周辺沿岸国から武力で強引に奪う無法行為を繰り返している。
中国は、ベトナムから1974年に南シナ海北西部のパラセル(西沙)諸島、88年には同海南方、スプラトリー(南沙)諸島西部の島しょを奪取。ファイアリークロス礁やスビ礁に3000㍍級の飛行場を建設中だ。また、94年、フィリピンが領有していたスプラトリー諸島東部の7つの暗礁を奪って、現在これを埋め立てて人工島を造成している。ベトナム、フィリピンはこれに強く反発、深刻な軋轢(あつれき)を生んでいる。
元拓殖大教授の吉原恒雄氏は、こうした中国の一連の占領政策について、「最高指導者・鄧小平時代に立案した南シナ海及び東シナ海の『内海化』計画に基づいて着々と実績を積み上げてきている」とし、「内海化」こそが戦略目的だと指摘する。
そして、「内海化には攻撃と防御の二つの狙いがある。第一の攻撃面では、対米核ミサイル原潜にとって安全な海洋の確保、第二の防御面では、西太平洋の覇権国家として不可欠な要件である西太平洋に面した領域の確保だ」と分析する。
それでも、中国は通常兵力では米国に太刀打ちできないと分かっているので、核戦力にも非常な力を注いできた。しかも、先制攻撃に弱い陸上発射型の大陸間弾道ミサイルよりも、秘匿性をもつ原子力潜水艦から発射する核弾道ミサイルSLBMを重視しているとされる。
元自衛隊統幕議長の杉山蕃氏は、「南シナ海問題は1970年以降、海底資源の有望性から中国が急速に進出したことに始まるが、今や南シナ海の価値は軍事的重要性にある」とし、中国の最も重要な軍事拠点が海南島であると指摘する。(本紙2014年5月29日付「ビューポイント」)
ただ、中国の戦略原潜は海南島に5隻配属されているが、発射される核ミサイルの射程は約8000㌔㍍とされ、南シナ海から米国本土には届かない。米国をけん制あるいは攻撃するためには、太平洋に出なければならない。米海軍に自由に南シナ海で行動されては、海南島の基地から出港した途端に米軍の原潜や対潜哨戒機などに探知されてしまう。
そこで中国は、日本の鹿児島南方から沖縄、台湾、フィリピンにかけてラインを引いて、これを「第1列島線」とし、米海軍を中国本土に近づけない接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略で南シナ海から排除し、聖域化することに躍起になっている。
国際法では、領土取得について「時効による取得」がある。この特徴は「開始が不法な領土支配であっても、一定期間、平和裏に実効支配する」ことで領有権が確定するという点にある。フィリピン沖合いのスビ礁に空軍基地が完成すれば、米海軍の艦艇は航行の自由を制限され、フィリピンはのど元に銃口を突きつけられた格好になり身じろぎすらできなくなる。中国の行動を放置すれば、やがては中国の領有権は認められることになるだろう。中国はこの時効取得を悪用して、南シナ海の支配権を確保しようと画策しているのだ。
南シナ海が中国の内海となれば、中国の許可がなければ軍の艦艇はおろか民間船舶でも航行できなくなる。吉原氏は「米国にとっては南シナ海の自由航行は不可欠ではないが、日本の場合は、国際競争力の低下につながり、致命的打撃を受ける」と、南シナ海問題は日本の死活問題だと強調する。
ところが、中国が遠大な計画の下に外交・軍事政策を遂行しているのに対し、日本では、自民党の有力議員から「日本は南シナ海は直接関係ない。南沙問題を棚上げして、目先のメリットに繋(つな)がる(日中の)二国間交渉をやるべき」という発言が飛び出すなど、わが国の当面する軍事情勢についての基本的な認識すら欠いていると言わざるを得ない。
(政治部・小松勝彦)