及び腰のオバマ米政権、対立回避優先で中国を増長
緊張 南シナ海(2)
南シナ海をめぐる緊張は、一方的に人工島を造成した中国に責任があるが、対立回避を優先するオバマ米政権の及び腰が、中国の行動を加速させた側面があることは否めない。
オバマ政権は先月末、人工島周辺に駆逐艦を派遣したが、中国が埋め立てを開始してから約2年も経過している。既に造成された人工島を物理的に排除するのは、全面戦争にでもならない限り不可能だ。今になって米国が対抗姿勢を強めても、中国が「砂の万里の長城」(ハリー・ハリス米太平洋軍司令官)を築いた事実が覆ることはない。
保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所のマイケル・マッツァ研究員は、こう指摘する。
「習近平中国国家主席は既に勝利宣言しているはずだ」
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、中国が人工島造成を開始した当初、オバマ政権ではどう対処すべきか、明確な方針が定まっていなかったという。当時のサミュエル・ロックリア太平洋軍司令官は、政権内の戦略不在を理由に海軍が単発的な示威行動を取ることに難色を示したとされる。
オバマ政権の対応が変わり始めたのは、今年2月に南シナ海問題を重視するアシュトン・カーター国防長官が就任してからだ。太平洋軍司令官が対中融和派のロックリア氏から強硬派のハリス氏に交代したことも、その流れを後押しした。カーター氏は同5月、「国際法が許すあらゆる場所で飛行、航行、作戦を展開する」と明言した。
だが、国防総省の動きに抵抗したのがホワイトハウスだ。スーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は「サイバー問題などをめぐる対中協議に悪影響が及ぶことを懸念し、軍事的対応を取ることに慎重だった」(同紙)という。9月の習主席訪米後まで軍事的対応は見送られ、駆逐艦派遣は結局、10月末まで先延ばしされてしまった。
オバマ政権が重い腰を上げたことは歓迎すべきだが、どこまで本気なのか。ジョン・ボルトン元米国連大使は駆逐艦派遣を「よく練られた戦略でも決意の表れでもない」と断じる。
オバマ政権は「四半期に2度以上」のペースで海軍艦船を派遣する方針を示したが、今後は中国の海上民兵の妨害に遭うなど、事態がエスカレートする可能性も否定できない。「オバマ大統領は次に起き得ることへの備えができているのか」と、ボルトン氏は懸念を示す。
対立や関係悪化を恐れて萎縮する米国を見て、中国は人工島造成を加速させてきた。この流れを断ち切るには、対立回避を優先するのではなく、一定の摩擦を受け入れるべきだとの主張が米国内で出始めている。
アンドリュー・エリクソン米海軍大学准教授は「現在の中国指導部はある程度の摩擦や緊張を覚悟している。我々もその覚悟をしなければならない」と主張する。米中は冷戦時代の米ソのような全面的な対立関係にはないものの、双方が国益を守るために限定的な摩擦を繰り返す「競争的共存関係」の時代に突入したというのがエリクソン氏の見方だ。
国際貿易と米軍の戦力展開にとって死活的に重要な南シナ海。その安定と秩序を守るためなら、中国との対立も辞さない、そんな覚悟がオバマ氏にあるのか。内向きで及び腰のオバマ外交が世界を不安定化させてきた過去7年間を踏まえると、極めて心もとない。
(ワシントン・早川俊行)