APEC首脳会議、テロ行為への非難で一致

対「イスラム国」の構図鮮明に

 マニラ首都圏で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は、直前にパリで起きた連続襲撃事件を受け、イスラム過激派組織「イスラム国」によるテロ活動を強く非難する首脳宣言を採択して閉幕した。またアキノ比大統領は 日米首脳と個別に会談し、南シナ海で加速する中国の海洋進出を念頭に、安全保障の協力関係を強化することで一致した。(マニラ・福島純一)

アキノ大統領 南シナ海安全で日本に大型巡視船の提供要請

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APECで首脳会談を行ったアキノ大統領(右)と安倍首相(比大統領府提供)

 APEC首脳会議では、中国の南シナ海での埋め立てや軍事拠点化をめぐり、関係各国との対立が予測されていたが、開幕直前に起きたパリでの連続襲撃事件を受け、議論の内容はテロ問題に集中した。首脳宣言では「あらゆるテロ行為を非難する」とした上で、テロの脅威が経済発展に悪影響を与えかねないとし、「イスラム国」などへの資金流入阻止など、テロ対策を強化することで一致した。

 一方、APEC圏内の経済統合を目指すアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)をめぐっては、APEC加盟国21カ国のうち、12カ国がすでに環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に大筋合意していることを踏まえ、これを考慮するかたちで実現を目指す方針で一致。また、TPPを牽制(けんせい)する中国を中心に、米国抜きで進められている東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に関しても、早期妥結を目指すことが盛り込まれた。

 アキノ比大統領は18日にオバマ米大統領と首脳会談を行い、南シナ海で中国が行っている埋め立てや軍事施設の建設などの活動に関して停止を求めることで一致。さらにオバマ氏は、中国との領有権問題で、フィリピンがオランダのハーグ仲裁裁判所に提訴していることに関し、平和的な紛争解決だとして支持を表明した。またアキノ氏は、TPPへの参加に強い関心があることをオバマ氏に伝えた。これに先立つ17日に、米国から供与されたフィリピン海軍のフリゲート艦「グレゴリオ・デル・ピラール」を視察したオバマ氏は、さらに2隻の艦船をフィリピンに提供する計画を明らかにし、南シナ海での航行の自由をめぐる取り組みを一段と強化する構えを見せ、中国を強く牽制した。

 19日にアキノ氏は安倍首相と会談を行い、防衛装備品と技術移転に関する協定締結で大筋で合意。今後、速やかに協議を進める方針で一致した。南シナ海での海洋進出を進める中国を念頭に、安全保障における協力関係をより強固にするのが狙いで、日本政府は海上自衛隊で使用されている練習機の供与を検討している。日本政府はすでにフィリピンに供与する40㍍級の巡視船10隻の建造を進めているが、アキノ氏は今回の会談で、100㍍級の大型巡視船の提供を要請。安倍氏は前向きに検討すると返答した。さらに、日本政府とフィリピン政府は、マニラ首都圏の渋滞解消を図る円借款「南北通勤鉄道計画」に関する書簡の交換を行った。

 一方、APEC首脳会議の関連会合で演説した中国の習国家主席は、複数の新たな自由貿易協定の出現により断片化が起こる可能性を指摘し、FTAAPの実現を加速すべきだと主張。米国が主導するTPPが域内で主導権を握ることを牽制した。

 APEC期間中の18日には、フィリピン南部で、イスラム過激派アブサヤフが誘拐したマレーシア人男性のものとみられる斬首された頭部が発見された。フィリピン当局は、人質の殺害とAPECとは関連性がないと強調しているが、マレーシアのナジブ首相の訪比に合わせて殺害された可能性も考えられる。また「イスラム国」も同日に、拘束中の中国人男性とノルウェー人を殺害したと発表している。アブサヤフは国際テロ組織アルカイダと関連があるイスラム過激派。しかし最近は、「イスラム国」への傾倒を急速に強めており、フィリピン南部やマレーシアで外国人誘拐を繰り返し、高額な身代金を要求するなど反政府活動を活発化させている。

 今回のAPEC首脳会議では、領有権問題や経済協定をめぐる主導権争いの攻防を繰り広げる一方で、各国がテロ対策で国境を越えた協力を迫られている状況が、改めて浮き彫りとなった。

 APEC首脳会議に合わせて行われた抗議集会では、左派系団体や学生組織など約1000人が集結。行進を阻止する警官隊と衝突し、少なくとも28人の抗議者が負傷したほか、5人の警官も負傷して病院に運ばれた。