米国視野に動く北朝鮮

どうする拉致解決 日朝ストックホルム合意1年(6)

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インタビューに応える拉致議連事務局長の塚田一郎参院議員

 今週、改めて発足した自由民主党拉致問題対策本部の「対北朝鮮措置シミュレーションチーム」は、新たな制裁内容を議論し、来月にも政府への提言書をまとめる。拉致被害者、横田めぐみさんが通った中学校の一学年先輩で、チーム座長を務める拉致議連事務局長の塚田一郎参議院議員は、そのコンセプトをこう説明する。
 「基本的にはヒト、モノ、カネの三つが制裁の大きな柱。いわゆる制裁措置と言われるメニュー以外にも、これまで作ってきた措置を正確、厳格に執行していくこと自体が圧力になる」

 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の本部競売問題で、仮に落札した企業に総連が賃貸料を支払って継続使用する場合、その原資は総連系金融機関の破綻処理の一環で整理回収機構(RCC)による債権取り立ての対象になる。厳格な法執行による圧力だ。許宗萬総連議長の次男がマツタケ不正輸入の容疑で逮捕されたのも外為法適用の結果だ。

 塚田議員によると、チームの議論では半島有事における邦人救出についても話し合われる予定だ。同盟国の米国にどう協力を要請できるのかといった課題も含まれるという。

 オバマ米大統領は今年1月、従来の核開発・ミサイル発射以外にソニー・ピクチャーズ攻撃などのサイバーテロや人権問題も根拠にできる対北制裁のエグゼクティブ・オーダー(大統領令)を発令した。日本としては「米国独自の対北制裁や国際社会による北朝鮮人権問題の提起など多角的な圧力で、日本人拉致被害者救出という流れを作っていきたい」(塚田議員)ところだ。

 だが、北朝鮮側にも戦略はあろう。何年もの間「解決済み」としてきた拉致問題で日本との交渉再開に転じたのは、国際的孤立からの脱却を図る現実策であると同時に中長期的には「国交正常化に伴う補償と最終的には米国との関係改善まで視野に入れている」(日朝交渉筋)ためといわれる。

 事実上の「核保有国」となった北朝鮮は、核の本土攻撃や関連物資輸出を懸念する米国との妥協点を模索したがっている。日本とは拉致問題、米国とは核問題を逆手に日米と一挙に関係改善するという「大きな未来像」を描いている可能性がある。

 ストックホルム合意後の拉致問題をめぐる日朝交渉を複雑な心境で眺めていた国がある。歴史認識で日本との関係悪化が続く一方、北朝鮮とも冷え込んだままにある韓国だ。「拉致問題の進展を契機に日本が北朝鮮に経済支援を行う日朝接近を警戒している」(韓国政府系シンクタンク関係者)のだという。

 同関係者はその理由として、①韓国主導の南北統一が遅れる②支援金が核・ミサイルに投資される恐れがある③北朝鮮の経済発展に日本が介入し韓国のメリットが少なくなる――などを挙げた。安倍晋三政権の飯島勲内閣官房参与が訪朝(2013年5月)した際、韓国は事前通知がなかったことを「頭越しにされた」とやっかんだという話も伝わっている。

 今後日本は、韓国が拉致問題解決の障害になるという「予想外の出来事」が起きないよう韓国に一定の配慮をしていく必要が出てくるかもしれない。

 日本政府は現在、拉致問題の「一括全面解決」という方針を立てている。小泉純一郎首相(当時)の訪朝で5人の被害者が帰国したがそれだけでは、国民の憤りは収まらない。安倍首相が訪朝するとすれば、それは被害者全員の帰国が実現する時でなければならない。

(編集委員・上田勇実)

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