鍵握る議会での攻防

「雨傘革命」下の香港  揺れる一国二制度の行方(4)

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占拠デモ現場では完全直接選挙でない中央政府の普通選挙改正案に反対するスローガンが打ち出されている

 香港の占拠デモは、警官隊の強制排除執行後も、散発的に続く可能性が高い。長期的な見通しとしては香港トップの梁振英行政長官(2012年7月から任期5年)が中央政府の判断で早期辞任し、中央政府が事実上擁立する候補者を当選させ、民主派の要求を若干受け入れる形で玉虫色の決着をつけるというシナリオが濃厚だ。

 11日、中国の全国政治協商会議(政協)副主席を務める董建華初代行政長官が主席を務めるシンクタンク「団結香港基金会」が発足し、次期行政長官候補と目されている梁錦松(アントニー・リョン)元財政官がメンバーに含まれていることで立候補の布石ともみられている。もともと、親中派財界人だった董建華氏自身も2004年の新型肺炎(SARS)騒ぎで不評を買い、2期目途中で辞任した過去がある。

 同基金会の顧問には、2012年の行政長官選挙で梁振英行政長官の対抗馬だった唐英年(ヘンリー・タン)元政務官、香港基本法委員会の梁愛詩副主任、香港金融管理局の任志剛(ジョセフ・ヤム)元総裁のほか、アリババ集団(中国電子商取引最大手)の馬雲会長など政財界有力者88人が名を連ねる。

 梁錦松元財務官は「ごく少数が香港を混乱に陥れているが、大多数は健全な制度改革を望む中産階級や学生だ。具体的条件をさらに討議できれば政治体制改革を前進できる」と述べ、意欲をにじませている。

 占拠デモ混乱の発端は2017年の行政長官選挙改革をめぐる中国政府が示した現行案への民主派の反発だ。中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は8月末、1人1票の普通選挙を認めても指名委員会(1200人)が候補者を2~3人に絞る仕組みを現行案として決定した。約8割が親中派で占められる指名委員会では事実上、民主派を締め出す形で、「真の普通選挙ではない」と民主派は猛反発し、見直しを求めている。

 「今後は法案可否を決する立法会(議会=70)での攻防が焦点となる」と政財界関係者らは党派を超えて口をそろえる。

 立法会での議席数は親中派43、民主派27。法案通過是非の議決は来年5~6月に行われる見通しだ。全体の3分の2(47票)以上の賛成で法案が通過・施行することになるが、23票以上で廃案に持ち込めるため「民主派は全議員が廃案支持」(梁家傑立法会議員)となっており、廃案になる可能性が高い。

 民主党など民主派政党は民意を問う手段として立法会議員が辞職して補欠選挙に持ち込む計画を進めている。香港全域で議員を選ぶ「超級議席」枠の民主派3議員のうち1人か、あるいは全5選挙区選出の民主派議員各1人が辞職し、制度改革案を争点に補選を行って民意を問い直す動きだ。争点は梁振英行政長官の辞任勧告と8月末に決定した中国全国人民代表大会常務委員会での行政長官選挙改革案の廃案。

 だが、選挙区選出の5人が辞職すると、定数70のうち現有27の民主派議席数が重要議案を否決できる24議席を下回り、補選までに制度改革案が採択されるため、現実味は薄い。民主派としては「超級議員」枠1人での補選で信を問うぐらいしか切り札がない。

 法案が廃案となり、中央政府の決定が覆った場合、香港政府は面目を失う。「梁振英行政長官への肩たたきが始まる」(涂謹申立法会議員)との見通しは董建華氏の中途辞任時と重なって見える。親中派が当選し続ける中国式の行政長官選挙は50年間の一国二制度でどこまで民主化できるのか。親中派と民主派の攻防は、中台関係や中国民主化の行方をも大きく左右する。

(終わり)

(香港・深川耕治、写真も)