新文化で「香港人意識」拡大
「雨傘革命」下の香港 揺れる一国二制度の行方(3)
「どんなトラブルも私を悩ませない(中略)打算で数えることも勧告を受け入れることもない 天にそびえる頂き もう止まらない」
香港政府庁舎のある金鐘(アドミラルティー)の地下鉄入り口では香港人の若手歌手・黎曉陽さん(22)が毎晩のように雨傘革命を讃える歌「天行者 傘の誓い」をギター弾き語りで歌い、自然と多くの人々が座って聞いている。最近は地元テレビ各局で紹介され、注目の的だ。
中国共産党が香港版カラー革命と非難する占拠デモ。ジーン・シャープ米アインシュタイン研究所上級研究員が構築した198に及ぶ戦略的非暴力運動の実践方法の一つとして「芸術を通して抗議する」を行っているのだ。
占拠デモのエリアは、中心部の金鐘のほか、若者が集まる銅鑼湾(コーズウェイベイ)、繁華街の旺角(モンコック)の3カ所。様々なイベントを展開し、オブジェや張り紙もユニークだ。いくつもの素人バンドが演奏したり、学生たちは自習室を作って昼夜、自習している。陳天俊香港バプテスト大学学生会長は「警察が強制排除を再強行しても、再び同じ場所か別のエリアでデモは続く。自給自足で継続する訓練は十分に行った」と話す。
日本では1960年代の安保闘争では学生たちがゲバ棒(左翼が用いる角材)とヘルメットを使って武装闘争した一方、反戦フォークが流行した。
香港では9月28日、警官隊がデモ隊に87発の催涙弾を浴びせたことから、防備の傘や水中眼鏡、マスクが常備されるようになった。学生たちは非暴力による政府対話を交渉し、エリア内での歌や芸術作品、文化活動を「香港人意識」を高める上で重視している。
占拠デモのシンボルカラーは黄色。シンボルマークは傘。中国大陸からの観光客が往来する旺角のデモエリアでは、黄色の小さな傘を折り紙で作る青空教室を行い、老若男女が集まる。広東省広州からの中国人観光客は「デモで民主的な選挙ができるのは賛成」と支持を表す。
その一方、デモ周辺で貴金属店を営む周子龍さんは「人民解放軍が一刻も早くデモ隊を排除して通常の商売ができるようにしてほしい」と不満をぶつける。デモは長期化するほど、中国本土観光客にも民主化の観点で着実に影響を与えている。香港大学生連合会(学連)の周永康事務局長は「中央政府との対話に進展がなければ警察が一時的に強制排除しても道路占拠は来春まで、長ければ選挙制度改革案の表決が行われる5~6月まで続く」と見通している。
香港中文大学のコミュニケーション・世論調査センターが10日発表した香港市民の世論調査結果によると、「中国人」と自覚している人の比率は前回(2012年)より3・7ポイント減の8・9%。1996年の調査開始以来最低で、この比率は香港返還の1997年には32・1%だったことから見ても「中国人」意識は低迷している。
中国本土観光客とのトラブルが多発し、中国本土に対する感情は年々悪化。香港行政長官の選挙制度民主化に中国当局が圧力をかけていることへの反発もあり、「香港人」としてのアイデンティティーが強まっているとみられる。
「香港人」「香港人だが中国人でもある」と答えた人は合計68・8%で過去最高。22・3%は「中国人だが、香港人でもある」と回答。18~34歳の若者に限ると、「中国人」との回答はわずか4・3%だけ。若年層の香港人意識と反中意識は高まっている。
(香港・深川耕治、写真も)






