新次元の日米同盟 防衛産業協力が「対中SDI」に

2015 世界はどう動く 識者に聞く(8)

米ハドソン研究所上級研究員 アーサー・ハーマン氏(上)

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アーサー・ハーマン 米ジョンズ・ホプキンス大で博士号取得。アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)客員研究員などを経て現職。歴史家として8冊目の著作となるダグラス・マッカーサー元帥の伝記が来年出版される。

 ――日米同盟の重要性をどう見る。

 日米の同盟関係は、安定した安全保障環境を創り出すために不可欠だ。太平洋地域の戦略見通しは大きな変化の瀬戸際にあり、米国は日本との関係を新たな集団安全保障体制の礎とする必要がある。

 米国の歴代政権は1980年代以降、(日本ではなく)中国に焦点を当ててきた。冷戦時代、ソ連の拡大阻止で中国と利益を共有した経緯から、最近まで中国とパートナーになれると信じていた。だが、そうではないことに気付き始めた。

 米国はまた、第2次世界大戦以降、太平洋の安定を守るための軍事的負担が、もはや米一国では維持できない現実に気付いた。中国がもたらす戦略的挑戦に対応するため、米国はパートナーを必要としている。

 その最も重要なパートナーが日本だ。米国にとって日本の重要性は英国に匹敵する。ウィンストン・チャーチルは価値と利益を共有し、同じ海洋国家の米英を「特別な関係」と呼んだ。米英の特別な関係は戦後、西欧の平和を守る集団安全保障体制の礎となった。日米も70年間共有してきた価値と利益を土台に、米英のような特別な関係を築けば、今後数十年にわたり、地域の平和と安定の保証者となるだろう。

 日米同盟はただ価値があるだけでなく、「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めている。

 ――ゲームチェンジャーとは、具体的にどういうことか。

 日米間には、軍事・情報分野で緊密な協力関係がある。だが、まだ存在していないのが防衛産業協力だ。日米という世界最先端の技術力を持つ二つの経済大国が手を組み、侵略国を抑止する次世代兵器の開発に乗り出したらどうなるか。中国はソ連のように「我々には勝てない軍拡競争だ」と気付くだろう。

 従って、日米の防衛産業協力はレーガン米大統領が対ソ連で打ち出した戦略防衛構想(SDI)に匹敵するゲームチェンジャーとなり得る。アジアの将来に劇的な変化をもたらすだろう。そのために、日米は「防衛貿易協力条約」を締結する必要がある。

 ――中国は猛烈な勢いで軍事力の近代化を進めているが、日米の防衛産業協力によって技術的優位を維持できるということか。

 維持できるにとどまらない。中国が対抗できないほど前方に跳躍できる。

 ――防衛貿易協力条約のメリットとは。

 現時点で日本が米国の先端軍事技術を手に入れるには、極めて複雑な手続きを経なければならない。国防総省、国務省、商務省の3大官僚機構が日本への技術移転をあらゆる角度から調べ上げるため、手続きは数カ月、数年に及ぶ。

 条約があれば、この手続きを簡素化できる。日本は中国の軍事力近代化に対抗するのに必要な技術を必要な時に手に入れることが可能になる。

 一方、米国は新たな軍事技術の共同開発で日本企業をパートナーにすることが容易になる。日本は国産戦闘機の試験機を製造した。日本の取り組みは米国にとって大きな利益となる可能性を秘めている。

 ――オーストラリアが日本の「そうりゅう」型潜水艦の導入に強い関心を示している。

 日豪2国間だけでなく、米国にとっても重要な動きだ。そうりゅう型は、米国の兵器システムとインターオペラビリティー(相互運用性)を有するという利点がある。導入が決まれば、日米豪の防衛システムを統合させる、事実上、3カ国間の潜水艦契約となる。

 これは太平洋における戦力のリバランス(再均衡)の重要な一部となる。南シナ海で中国の愚かな行動を抑止するには、潜水艦が極めて重要になる。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)