安倍政権と憲法改正 日本人が自ら議論する時

2015 世界はどう動く 識者に聞く(9)

米ハドソン研究所上級研究員 アーサー・ハーマン氏(下)

400 ――安倍晋三政権が進める憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認をどう評価する。

 長年待ち望まれてきたものだ。日本はこれまで、バスの後部座席に座り、米国に主導権を委ねる消極的なパートナーだった。安倍首相は安全保障問題でより積極的な役割を果たそうとしている。

 このような新しい自己主張は、日本により大きな独立性をもたらす。米国にとっても、日本はより頼りがいのあるパートナーとなる。

 ――日本が集団的自衛権の行使容認や憲法改正などを通じて「普通の国」になることは、中韓両国が主張するように、地域に脅威をもたらすと考えるか。

 フィリピンやベトナムなど、他の国々は日本がより積極的な役割を果たすことを期待している。韓国が本当に攻撃的な隣人を憂慮するなら、覇権を握ろうとしている潜在的脅威は誰なのか気付く必要がある。

 それは日本ではない。中国だ。韓国もいずれ、自分たちの将来は中国共産党指導部ではなく、他の民主主義国とともにあると目を覚ますだろう。

 ――安倍首相の政権運営をどう見る。

 私は安倍氏を「日本のレーガン」と見ている。安倍氏は日本の将来を決めるのは「強さ」だと理解している。軍事的な強さだけでなく、経済的な強さもそうだ。そして、地域の攻撃的な国に対しては、譲歩やごまかしではなく、強い態度を取ることが、平和を守る最も確実な方法だと理解している。

 1980年代、ソ連と対決姿勢を取ったレーガン米大統領も、米国や欧州の安全を脅かす戦争挑発者だと散々批判された。だが、今は誰もがソ連崩壊と冷戦勝利をもたらしたのはレーガン氏だと理解している。安倍氏の取り組みは、日本のみならず、地域の安定のために極めて重要であり、レーガン氏が80年代に進めたものと似ている。

 ――米政府は基本的に日本が憲法を改正することを歓迎していない。特に、オバマ政権は安倍政権に冷ややかな印象を受ける。

 それは中国を怒らせたくないからだ。ワシントンでは今、中国や韓国を怒らせるな、という雰囲気が極めて強い。

 中国はナチス・ドイツではないし、冷戦時代のソ連でもない。だが、米国は中国がもたらす挑戦に対処しなければならない。そのプロセスの中心となるのが日本であり、安倍氏の取り組みは死活的に重要だ。

 今月スタートした(野党共和党が上下両院で多数を占める)新しい米議会や2017年に就任する次期大統領は、日本の重要性や安倍氏の取り組みを現政権よりもはるかに高く評価するだろう。

 ――日本の憲法改正を個人的に支持するか。

 私は最近、ダグラス・マッカーサーの伝記を書き終えたところだ。その中には連合国軍総司令部(GHQ)時代のことも含まれている。従って、私は日本の憲法がどのように制定されたかよく知っている。

 9条の規定はマッカーサーの個人的信念に基づいている。彼は、日本のような国に戦争と軍隊を放棄させることができれば、国際関係の潮流に劇的な変化をもたらし、他の国々も戦争は無益だと気付いて日本に追随していく、と考えた。過大な願望ではあったが、マッカーサーはそれが日本、米国、そして世界にとって最善だと信じた。

 私はマッカーサーの大ファンだが、日本人が自ら日本の憲法について考える時が来た。ポツダム宣言の勝者でもなく、マッカーサーとその部下でもない、日本人が議論をする時だ。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)