疲弊する米軍 予算強制削減で能力低下
2015 世界はどう動く 識者に聞く(7)
元米国防副次官補 スティーブン・ブッチ氏(下)
――国防費の強制削減は米軍にどのような悪影響を及ぼしているか。
国防費が予算全体に占める割合は19%にすぎないが、強制削減額の50%以上が国防費からカットされる。しかも、削減方法には制約が課され、国防総省の3大支出である給与、医療手当、退職手当には手が付けられない。残るわずかな分野で全ての削減額を引き受けなければならない。人員を減らし、訓練や改修・近代化を中止するしかない。
例えば、空軍は近代化を優先し、即応態勢を犠牲にしている。つまり、F35戦闘機を購入するために訓練を中止している。米軍の戦闘機パイロットは他国のパイロットより、キャリア通算の飛行時間が1年長いと言われていたが、飛行を止めれば、パイロットの技術は低下する。
空軍とは正反対のアプローチを取っているのが海兵隊だ。即応態勢を維持することが彼らの任務であるため、近代化を放棄し、全ての予算を訓練に注ぎ込んでいる。
だが、人員削減によって兵士が任務に派遣されるテンポが速くなり、緊急時のような運用になっている。通常の運用でこの速いテンポであるなら、緊急事態はどうなるのか。どのように兵力を増派するのか。司令官は「緊急事態が発生したら、全ての兵士を派遣し、任務完了まで留まらせる」と述べている。
海兵隊は米軍で最も若い部隊であり、彼らはベストを尽くすだろう。だが、このような運用が常時続けば、兵士や家族に深刻な負担をもたらす。
――国防費の強制削減が続く中で、大規模戦争が発生した場合、米軍は対応できるのか。
今、大規模戦争が発生したら、米軍はまだ戦うことができる。即応能力は低下しているものの、依然、強力であり、おそらく勝利できるだろう。だが、2年後はどうなるか分からない。時間がたつほど、米軍の能力は退化していき、いずれ深刻なダメージとなる。
――オバマ政権ではホワイトハウスが外交・安全保障政策を掌握していることに批判が出ている。
オバマ政権の国家安全保障会議(NSC)のスタッフは350人以上もいる。これはブッシュ前政権の約2倍で、それ以前の政権と比べると数倍も多い。彼らは米軍の日々の作戦にまで口を挟む。過剰なマイクロマネジメントだ。
ブッシュ前政権時代、私はラムズフェルド国防長官の下で働いていたが、長官には大きな権限が与えられていた。大統領、副大統領から指示を受けることはあったが、日々の作戦にまで介入することはなかった。
専門分野で豊富な経験を持つ将官や文民高官を政策決定の枠組みから外し、軍事分野の経験が皆無の若い連中が判断を下すやり方が効果的とは思えない。
――中国が軍事力の近代化を急速に進める一方、米国は10年以上、アフガニスタン、イラクでの低烈度戦争に集中している。米国は中国に対する技術的優位を維持できるか。
できると思う。米国はまだ低烈度戦争を戦っているが、知的次元では既に次を見据えた動きを始めている。ベトナム戦争後の「二度とこのような戦争はしない」といった議論はなく、低烈度戦争のスキルを維持する必要性が認識されている。だが、その一方で、国防総省やシンクタンクには、中国軍とどう対峙すべきかを検討している戦略家が多くいる。
また、米国は技術面で非常に強靭だ。民間セクターでは多くの技術革新が起きており、これが政府によって活用されている。米国が優位を維持するのを助けてくれるだろう。
一方、中国は産業スパイに力を入れている。それによって中国は早くキャッチアップするのが可能になっている。これは問題だ。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)





