日米の対中政策 国家競争力高める戦略を
2015 世界はどう動く 識者に聞く(2)
米国防総省顧問 マイケル・ピルズベリー氏(下)
――米国や日本は中国の「秘密戦略」に気付かずに中国と付き合ってきたということか。
米政府も日本政府も過去30年間、中国が強大化するのを積極的に支援してきた。これは公式政策だ。中国は貧しい後進国だ、平和を志向している、日米の協力を求めている、だから、我々は中国を支援しなければならない、そう信じてきた。
中国への対外投資が最も多いのは米国企業だ。オバマ大統領も昨年11月、北京で中国の繁栄は米国の利益だと明言した。日本の外務省も、中国に米国や日本に取って代わる意図があるなどとは全く思っていない。中国政府が言うことを鵜呑(うの)みにし、中国の成長を支援し続けなければならないと決めている。
――中国に対する甘い思考を捨て、対中政策を改めるべき時か。
改めるのは困難だろう。中国に隠れた意図はないとする固定観念が強すぎるからだ。中国も他国に対し、我々は自由市場経済に移行している、いずれ政治改革も進む、などと言って希望的観測を助長し、固定観念を強化している。従って、中国に対する甘い思考はずっと続く。
中国に進出している外国企業の幹部たちも、中国政府にペナルティーを科されるのを恐れ、中国に好意的なことしか言わない。人権やチベットなど、中国政府の機嫌を損ねるテーマには決して触れない。
中国はまた、親中派勢力を拡大するため、米国、日本、欧州諸国の政府・議会関係者が中国に対してどのような考え方を持っているか、綿密に調べ上げている。例えば、日本の外務省職員の名前を挙げたら、彼らはすぐにその職員の対中観を答えられるだろう。
私は日本政府関係者に「米国では誰が親日派で、誰が反日派か」と尋ねることがある。彼らは、リチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイ両氏が親日派で、反日派は労働組合幹部、などと極めて大雑把にしか答えられない。だが、中国は違う。誰がどのスペクトラムにいるのか、全て正確に把握している。これも中国の戦略の一環だ。
――では、どうしたらいいか。
私は2月に出版される新著で、米国が対中競争力を高めるために取るべき12の施策を提言している。その中の一つが、科学、教育、投資、税制など、他国と比べた米国の国家競争力を包括的に分析した年次報告書をホワイトハウスが議会に提出することだ。今はそのような報告書がないため、現在の競争力や将来の見通しがつかめない。
これに対し、中国は20年以上、国家競争力の包括的な測定を行っている。実に優れた制度だ。だが、米国、日本、欧州にはこうした制度はない。中国だけが競争力の重要性を深刻に理解している。
日本もこうした報告書を出してはどうか。それによって長期トレンドが分かり、国家競争力を高める戦略が立てられる。
――尖閣諸島をめぐる日中の対立をどう見る。
中国が米国に受け入れを迫る「新型の大国関係」は、尖閣諸島問題にも関連している。
尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない、というのが日本政府の立場だった。だが、(昨年11月の日中首脳会談実現のために)領土問題が存在するかのような譲歩をした。これは日本と米国にとって極めて大きな譲歩だ。日本が下した決定だが、米国は日本に対し、領土問題が存在するとの中国の立場を受け入れてはどうかと示唆した。
中国はこれこそ新型の大国関係だと言っている。日本やフィリピンなど同盟国を無条件に支援するなら、それは旧型であって新型の関係ではない、というのが中国の主張だ。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)