オバマ氏の世界観 米の地位下げ、多極化を志向

2015 世界はどう動く 識者に聞く(3)

米ヘリテージ財団特別研究員 リー・エドワーズ氏(上)

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リー・エドワーズ 1932年、米シカゴ生まれ。米カトリック大で博士号取得。米保守主義の歴史家として著名。レーガン大統領の伝記など多数の著書があり、『現代アメリカ保守主義運動小史』は邦訳されている。有力シンクタンク、ヘリテージ財団特別研究員のほか、「共産主義犠牲者追悼財団」会長を務める。

 ――「米国を変革する」と宣言して就任したオバマ大統領の6年間の政権運営をどう見る。

 オバマ氏は問題を解決できるのは連邦政府だという「積極主義政府」を信奉する進歩派、リベラル派だ。オバマケア(医療保険制度改革法)がその典型で、個人の自由や自助に基づく社会から、連邦政府や官僚機構に依存する福祉国家に変えようとしている。

 フランクリン・ルーズベルト大統領が1930年代に、リンドン・ジョンソン大統領が60年代にそれぞれ推し進めたことを土台に、福祉国家、管理国家、官僚国家を築くのがオバマ氏の理想だ。この3人には連続性がある。

 だが、18世紀に米建国の父たちが掲げた建国の理念は、小さな政府、個人の自由、自己責任、自由な企業活動だ。オバマ氏は米国民の基本的思想や歴史に逆行している。

 ――オバマ氏はなぜ米国の伝統と異なる価値観を持つようになったのだろうか。

 おそらくオバマ氏は生まれ育った場所(ハワイやインドネシア)の故に、米国の文化や理想、建国の理念に根を下ろしたことがないのだろう。

 また、学術界がリベラル勢力に占められ、米国の歴史は学校で左翼の視点から教えられている。リベラル派の教授たちはルーズベルト、ジョンソン両大統領を偉大だと強調する一方、レーガン大統領が残した業績についてはあまり関心を払わない。これは若い世代の考え方に大きな影響を及ぼしている。

 オバマ氏の考え方はリベラルな大学教授や高校教師たちと同じだ。オバマ氏が受けた教育も彼の哲学や政府観に影響を与えたと考えられる。

 ――オバマ氏の世界観は。

 オバマ氏は国家主義者ではなく国際主義者だ。全ての国が同等に特別だと考えている。フランスも中国も日本も米国と同じように特別な国だと。

 だが、普通の米国人の見方は違う。建国の理念や過去半世紀以上にわたる世界への貢献から、米国は特に特別な国だと信じている。

 オバマ氏は国際法や国際機関、国際条約を通じた問題解決を重視し、力の行使や敵と対立的に向き合うのを好まない。我々は西側世界に脅威をもたらす勢力が存在する危険な世界に生きているにもかかわらず、国際主義者のオバマ氏は米国の原則を強く主張することに消極的だ。

 また、オバマ氏は直接的な戦闘よりも無人機による作戦を優先する。無人機作戦は極秘で行われる力の行使であり、オバマ氏の思想を示すものだ。

 ――オバマ氏は米国が超大国の地位を占める一極世界よりも、中国やロシアなどが影響力を拡大する多極世界が好ましいと考えているのか。

 その通りだ。それは間違いない。オバマ氏は、一極または二極世界は対立の可能性を高めるとの理由で支持していない。これまでの行動を見る限り、オバマ氏は米国の例外的、指導的地位を意図的に弱め、米国を幅広い国家の連合体の一部にしようとしている。

 これはあまりにナイーブな考え方だ。世界は米国のリーダーシップを求めている。これは米国の国益であると同時に、世界の利益でもある。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)