中国の「100年戦略」 目指すは米に代わる超大国

2015 世界はどう動く 識者に聞く(1)

米国防総省顧問 マイケル・ピルズベリー氏(上)

 今年の世界はどう動くのか。ますます露骨な威圧行動を見せるようになった中国、核保有を武器に瀬戸際外交を続ける北朝鮮、世界を震撼(しんかん)させている「イスラム国」などについて識者に分析・展望してもらった。

 ――中国の対外長期戦略をどう見る。

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マイケル・ピルズベリー 1945年、米カリフォルニア州生まれ。コロンビア大で修士号、博士号を取得。レーガン政権で国防次官補佐、ブッシュ父政権で国防長官室アジア担当特別補佐官などを歴任。現在、国防総省顧問や大手シンクタンク、ハドソン研究所上級研究員を務める。2月に新著『100年マラソン―米国に代わり世界の超大国となる中国の秘密戦略』が米国で出版される。

 中国は毛沢東による1949年の建国から100周年の2049年に焦点を当て、100年かけて米国に代わる世界の超大国となる「秘密戦略」を隠し持っている。中国はその目標に向かい、「100年マラソン」をしているのだ。

 中国の秘密戦略には三つのソースがある。第一のソースは世界銀行だ。世銀総裁は1983年に中国を訪問し、”小平に対し、後進国の中国が経済大国になるにはどうしたらいいか、助言すると約束した。そのモデルとなったのが、高度経済成長を遂げた日本だ。中国は世銀の助言を受け入れることに同意し、日本の成長モデルに追随することを決めた。

 第二のソースは米国だ。中国は69年までソ連と同盟関係にあったが、後進的なソ連に従うのは失敗だったと判断した。方針転換した中国が新たなモデルに据えたのが米国だ。中国は米国の100年マラソン、つまり、大英帝国からどのように超大国の地位を奪ったのか、1840年代から100年間の米国の歴史を徹底的に研究した。

 第三のソースは古代中国の春秋戦国時代だ。紀元前700年代から同200年代までの約500年間、覇権国が盛衰を繰り返した。この時代の成功と失敗を、多くの中国軍幹部たちが研究している。

 中国は表向き、超大国になる意図を否定し、他国を安心させるために、「我々に長期戦略はない」「平和を求める我々を警戒する必要はない」と盛んに宣伝している。米国や日本はこうした主張を鵜呑(うの)みにし、「中国は環境汚染や民族対立など国内課題に手いっぱいだ」「科学水準は低く、ノーベル賞受賞者(平和賞を除く)もいない」「後進国の中国が我々を追い越すことはない」などと過小評価してきた。

 だが、この見方は誤りだった。中国は(経済規模で)日本を追い越した。米国も追い越す見通しだ。中国が春秋戦国時代から学んだ重要な戦略の一つは、相手を懐柔、または自己満足させ、自分たちと競わせないようにすることだ。

 ――このままだと、2049年までに中国が超大国になる時代が来るということか。

 そうだ。

 ――中国は米国の歴史からどのような教訓を引き出したのか。

 米国は大英帝国に銃弾を一発も撃つことなく、超大国の座を奪った。中国もこれを目指している。英国は少なくとも1900年まで、世界最大の海軍力、経済力を有する超大国だった。米国は英国が覇権の平和的移行を受け入れなければ、力で米国を抑えるだろうと判断した。これを避けるために、米国は英国の利権を脅かすつもりはない、世界の超大国になる意図はない、と英国を安心させながら、カリブ海や太平洋で勢力を拡大させていった。

 そして、1922年のワシントン海軍軍縮条約で、主力艦保有比率を米5、英5、日本3とすることが決まった。米国は英国に海軍力の同等な地位を平和的に認めさせたのだ。

 中国は今、米国に同等の地位をどう認めさせるか模索している。それが習近平国家主席による「新型の大国関係」の提案だ。超大国が新興国を力で抑えつける「旧型の関係」から、米国は中国の台頭を妨げない「新型の関係」を構築しようという主張だ。

 習主席がこの考えを初めて提案したのは、2013年にカリフォルニア州のサニーランズで行われた米中首脳会談だ。オバマ大統領は検討すると述べたものの、受け入れてはいない。この提案は中国の100年マラソンの一部だ。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)