重鎮・側近で長期政権図る

再改造内閣 始動(上)

 安倍晋三首相は3日の自民党役員人事で、幹事長に二階俊博総務会長を据えた。党内には谷垣氏の総裁経験者としての調整力を改めて評価する声が高く、首相は当初、二階氏の留任とともに谷垣氏を続投させる考えだった。しかし、谷垣氏が自転車事故で入院し続投を固辞したことで要となるポストの再検討を余儀なくされた。

安倍晋三首相

記者会見する安倍晋三首相 3日午後、首相官邸(代表撮影)

 「党内のパワーバランスが変わる」(閣僚経験者)と懸念する声がある中、首相は党内外ににらみの利く二階氏に党運営を託した。二階氏は与野党が激しく対立した安保法制の成立に向けて党内の結束に力を発揮。公明党にもパイプを持つ調整力に期待する。

 総務会長には細田博之幹事長代行を充て、政調会長には茂木敏充選挙対策委員長を起用した。茂木氏は、選対委員長として、大勝した14年衆院選と今回の参院選で陣頭指揮を執った。大量当選した1年生議員や若手の取りまとめが期待される。首相としては、ベテラン3人と高村正彦副総裁の続投による重厚な布陣で、谷垣氏が抜けた穴を埋める算段だ。

 内閣改造では、麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、岸田文雄外相の屋台骨を残すとともに、主要ポストを首相の側近で固めた。

 目玉となるのが、稲田朋美政調会長の防衛相就任だ。将来の総理候補として、外交・安全保障政策について経験させる狙いがある。このほか、TPP(環太平洋連携協定)を担当する経済産業相の世耕弘成官房副長官、新設した「働き方改革」担当相を兼務する加藤勝信1億総活躍相も首相の側近だ。

 その一方で、19人の閣僚のうち初入閣は8人で、各派閥に散らばっている。首相は3日の会見で「未来チャレンジ内閣」と内閣の清新さをアピールしたが、約70人いる「待機組」やそれを抱える派閥中に渦巻く不満のガス抜きの意味合いもある。

 首相は在任中での憲法改正の意思を表明しているが、2018年9月までの党総裁任期の延長も視野に入れている。党・内閣の中枢を重鎮と側近で政権基盤の安定を図ったとみられる。

 二階氏も任期延長について「余人をもって代えがたしという状況が生まれてくれば、対応を柔軟に考えていくのは大いに検討に値する」と、容認する考えを示している。

 選挙戦術に精通した二階氏を幹事長に据えることで、首相はいつでも衆院解散に打って出る構えとみられる。「伝家の宝刀」を懐に忍ばせながら国会運営を推し進める。

 内閣改造での誤算は、石破茂氏が地方創生担当相から農水相への横滑り人事を断り、閣外に出たことだ。首相は長期政権を念頭に、「ポスト安倍」と目される岸田、石破両氏の閣内囲い込みを図った。岸田氏は、希望していた党幹事長就任はならず派閥内に失望感が広がっているが、政権の「禅譲」に期待をつなぐ。

 これに対し、石破氏は、安倍内閣を支える立場は変わらないとするが、任期延長には反対の考えで、首相としては、政権の不安定要因を野に放ってしまった格好だ。

(小松勝彦)