安保法成立で日本はどう変わるか

世日クラブ

自民党政務調査会調査役 田村重信氏

切れ目ない安保体制構築へ

 自民党政務調査会調査役の田村重信氏はこのほど、世界日報の読者でつくる「世日クラブ」(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で「安保法成立で日本はどう変わるか」と題し講演を行った。その中で、田村氏は日本を取り巻く安全保障環境が激しく変わってきており、切れ目のない安保体制を構築するため今国会で審議中の安保関連法案の成立は必要不可欠であると強調した。以下はその要旨。

必要不可欠な備え/戦争は自然災害と違い防げる

中露の国防費伸び突出/朝鮮半島の兵力186万人

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 国家とは何か、国家にとって何が必要か、という点が大事だ。『安岡正篤 活学一日一言』(致知出版)の8月16日に「國という字」が載っていた。それによると、「國という字は元来『或』(存る・存在する)という字を書きまして、或の下の一は大地、口は占拠・領域、戈は武力を表している。即ち一定の土地を占拠して、それを武力で守っておるのが或であります。国・領土というものは武力を以て防衛して、初めて存在することが出来るということです。(略)そういう或(くに)があちらこちらにも出来ますから、自然に外ワクの口がついて、國という字が出来たわけであります」とある。こういう当たり前のことが日本では結構理解されていない気がする。

 また、19日の「亡国の姿」では、「どうやらこうやら存在しているにすぎないような自主自立性の乏しい間抜けた国は、危なくなってから、やっと心配し始める。だめな国はどうにもならなくなって、やっとそれがわかる。死ぬところまで落ちこんで、やっと死ぬのかと狼狽(ろうばい)するのである」と述べられている。だから、現在、国会で審議中の安全保障関連法案に反対する人たちはそういう人たちだ。今日、国際情勢が非常に変動しているので、日本は抑止力を高め、日本の防衛力を強化すると同時に米国との協力関係を強めていかなければならない。特に、米国の軍の最高指導者は議会発言で、最近脅威なのはロシアと中国だと言っている。

 日本周辺の正規軍の兵力数をみると、日本は23万人だが、韓国が66万人、北朝鮮が120万人、中国が229万人、ロシアが85万人である。人口は韓国が日本の半分、北朝鮮は5分の1程度にもかかわらず、これだけの兵力がある。朝鮮半島だけで186万人もあるのは驚きだ。それだけ日本の周辺は厳しい情勢であることが分かる。最近10年間における国防費の変化を見ると、ロシアと中国が断とつで伸びてきている。中国、台湾の国防予算でも97年には台湾の方が多かったが、今は圧倒的に中国の方が多い。第4世代の戦闘機数の推移も、07年には同じぐらいだったのが現在は倍以上中国の方が多くなっている。こういう話が国会でほとんど議論されない。

 国民が知りたい話を政府がしたくても野党が質問しなくてはできない。特に衆議院で法案を審議していたときはそうだった。だから、参議院では与党の方の質問時間を増やしてヒゲの隊長の佐藤正久さんらがこういう質問を特別委員会でして政府から回答を引き出し、なるほど中国の軍事費の増加は大変なことなんだな、とか南シナ海、東シナ海の進出問題、尖閣諸島の問題がクローズアップされてきた。それによって日本の周辺情勢が変わってきているし、それに応じて日本の構えをしっかりしないといけない、そのための法制なんだということが段々分かってきた。平和安全法制というのは戦争を防止、抑止するための法案だ。戦争を起こさないための法案であることが少しずつ(国民は)分かってきたと思う。

 この法制は、憲法を改正しないでできるぎりぎりまで追求した法案だ。その意味で憲法違反になるかどうかという議論が出て当然の話ではあるが、これは違憲にはならない。砂川判決とか72年の政府見解とかいろいろな説明があるが、内閣法制局が調整をしてOKといった法案なので大丈夫だ。イラク特別措置法のときも憲法違反だという訴訟が全国でたくさん起こされたが、訴えた方が全部負けている。今度も法案が成立した後に訴えたらいい。訴えた方が負けるのは確実だ。

 それから「備えあれば憂いなし」というが、やはり備えておかないといけない。風水害、地震、台風などの自然災害に対して国土強靭(きょうじん)化ということで備えをする。しかし、いくら備えをしても地震は来る時は来る。しかし、戦争はきちんと備えておくと相手は攻めてこない。それが抑止力であり、戦争は防げるのだ。自衛隊の備えをきちんとし、日米同盟をしっかりしておけば国を守れるということである。

 二つの言葉が重要だ。小泉信三・元慶應義塾塾長の「平和というのはただ平和、平和と口で言うだけでは達成されないので、平和を破るような行為を阻止する手段を講じることが必要なのだ」という言葉と、哲学者の田中美知太郎氏の「憲法に『平和』と書けば、『平和』になるのであれば憲法に『台風は日本にくるな』と書けばよい」というものだ。憲法9条をピーアールすれば戦争はない、ということはない。

 民主党が平和安全法制ができると「徴兵制になる」と言うのはデマだ。憲法上、徴兵制はできないのだから。それと時代が徴兵制を必要としなくなった。科学技術が進歩している。ドイツは徴兵制だったがやめた。スウェーデンもやめた。最近の戦争のスタイルは無人機やサイバーを駆使することが重視されてきている。米国では徴兵制で来た人と一緒に仕事をしたくないという声が多い。敵と戦うよりその人を守らなければならないからだ。

 憲法と自衛隊の関係では、武力行使と一体化しない。PKO(国連平和維持活動)は参加5原則がPKO協力法に入っている。それと周辺事態法は後方地域で支援するものだ。例えば、米軍が朝鮮半島に行ったら日本も一緒に行くとなったら憲法違反になってしまうので離れたところで支援する。テロ特措法やイラク人道復興支援法は非戦闘地域でやっている。では今度はどうなるのかと言うと、戦闘行為を行っている現場では支援活動をしない。では間もなく戦争になるというときはどうするのか。これは隊長がそういう情報を得たら、危険なので帰ってくるということになって憲法違反にならないようにきちっとやっている。

 自衛官の自殺率についての柳澤協二氏(元内閣官房副長官補)の話はひどいうそだ。週刊誌で一般の国民よりも自衛官の自殺は1・5倍だと言っている。イラクから帰ってきた自衛官は10倍だという。これはおかしいので調べた。すると、約95%を占める自衛官男性の方が、一般成人男性より低く、イラクに行った人は志願して行ったわけだしさらに少ない。それで東京新聞がお詫びと訂正を出した。しかし、出したのが28面だ。しかも記事自体を出したのが3年ぐらい前の1面だった。それがずっと影響しているのだ。しかし、今国会で自殺の話は出てこなくなった。こういう数字は即座に調べて対応しないとだめだ。平和安全法制に反対する人たちは安倍総理が言ったことをきちっと知らなければならない。首相は閣議決定の意義について、「70年前、私たち日本人は一つの誓いを立てました。もう二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。この不戦の誓いを将来にわたって守り続けていく。そして、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。この決意の下、本日、日本と世界の平和と安全を確かなものとするための平和安全法制を閣議決定いたしました」と語っている。(略)。ものはトータルで見るべきで、批判する人たちは一部を見てするのでなく全体を見る必要がある。

 たむら しげのぶ 1953年生まれ。新潟県出身。拓殖大学卒業後、慶應義塾大学大学院法学研究科で「憲法と安全保障」を学ぶ。自民党本部で、水産、憲法、沖縄、安全保障などを担当。橋本龍太郎総裁の下で総裁担当。現在は、政務調査会調査役(外交、国防、安全保障、インテリジェンス、TPPなどを担当)、日本論語研究会代表幹事。著書に『憲法と安全保障』『改正 日本国憲法』『安倍政権と安保政策』『なぜか誰も書かなかった民主党研究』『いま、学ぶべき偉人伝!至誠通天』など多数。