「安倍路線」トータルで審判を


編集局次長・政治部長 早川一郎

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衆議院が解散され、万歳する議員と安倍晋三首相(後列中央)=21日午後、国会内

 衆議院が解散され、来月14日投開票に向けて日本列島は事実上、選挙戦一色になる。安倍晋三首相は記者会見で「アベノミクス解散」と命名し「前に進めるのか、やめてしまうのかという選挙だ」と語った。ただ衆院選は政権選択の選挙でもある。経済再生という単一政策(シングルイシュー)での戦いというよりも外交・安保、教育再生、憲法改正など日本の針路に深くかかわる問題をトータルに論戦し国民の審判を仰ぐべきである。

 首相は解散理由として来年10月と定められた消費税率10%への引き上げを17年4月に延期することを明らかにし「重い決断をする以上、速やかに国民に信を問う」と述べた。再増税引き上げの判断は、景気条項にある通り経済状況を見てできることになっているし、国民の支持率が依然として50%近くあるのに解散に踏み切った背景には、財務省や自民党内の増税派の抵抗をかわしたかったこともあろう。また、首相にとっての最大の仕事は、解散のタイミングを見定めることだ。野党の選挙協力が整っていない状況で「打って出る解散」に踏み切ることも当然あり得よう。

 だが、勝敗ラインが自民、公明合わせて「過半数(238)」という設定はあまりにも低すぎる。自民単独で295議席を持っていながら両党で過半数ということは、88議席失うこともあり得るという極めて消極的な数字だ。両党の幹部があわてて絶対安定多数の「266」に修正したが、それでも自民が約60減らす計算で、自ら“負け戦”を認めたような目標設定でいいのか。

 アベノミクスの成果は、株高・円安、雇用拡大、賃金上昇など多方面で出ている。もちろん、地方創生の具体策はこれからであり、異次元の政策も見えない。成長戦略の中身も不十分だ。これらを選挙戦で明らかにし国民の信頼を深めることが不可欠である。それと同時に、「安倍路線」の全体像をもっと前面に出して戦う必要があろう。力で法の支配を壊す中国の包囲網を形成するための外交路線は日米豪印によるダイヤモンド構想を強化させ、フィリピン、ベトナムなどからも強い支持を得ている。「地球儀を俯瞰(ふかん)する積極的平和外交」の成果である。

 首相は消費増税の延期に関し「代表なくして課税なし。(それは)アメリカ独立戦争の大義だ」と語り、税制が国民生活に密接にかかわっていることを強調した。しかし、その独立戦争を経て1787年に制定された合衆国憲法前文の柱の一つに、国民の安全保障の重要性が掲げられている。安全保障は「国民への最大の福祉」であることを考えれば、集団的自衛権の行使一部容認の閣議決定や憲法改正もテーマにすべきではないか。

 一方の野党は、アベノミクスを批判するのであればその代案を提示すべきだ。消費増税の延期を支持するのなら、いつ再増税を断行するのか、回答を示さねばならない。みんなの党の解党、次世代の党や維新の党の誕生など前回の総選挙時と比べて第三極にも変化が出ている。各党は明確な公約を掲げ国民の審判を仰がねばならない。