米中メディアの軋轢 米は「公器」、中国では「紅旗」
《 記 者 の 視 点 》
米国務省は18日、国営新華社通信など中国メディア5社について、「外国の宣伝機関」と認定すると明らかにした。認定対象となったのは新華社のほか、中国国営の外国語放送「CGTN」、ラジオ局の中国国際放送、中国共産党系英字紙チャイナ・デーリーだ。
中国外務省は直ちにこれに反発し、「強烈な不満と断固とした反対」を表明。さらに、追い打ちを掛ける形で米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の北京常駐記者3人の記者証を無効にすると同時に国外退去を命じたとされる。
これに対しポンぺオ米国務長官は19日、中国外務省への非難声明を出した。声明では「成熟し分別のある国は報道機関が事実を報じ、意見を表明することを認めている」と強調した上で「正しい対応は言論を制限するのではなく、反論を提示することだ。中国の人々が米国人同様、言論の自由を享受することを望んでいる」と訴えた。
この米中の軋轢(あつれき)の根底には、ジャーナリズムをめぐる価値観の違いがある。
米国には民主主義を支える「社会の公器」として、ジャーナリズムが不可欠と考える一方、中国はメディアは共産党政権の広報であり、統一戦線の一翼を担っているという認識だ。いわば中国共産党政権下のメディアは、「社会の公器」どころか、「紅旗」に風を送るプロパガンダ機関みたいなものだ。
だから中国では言論の自由は憲法上だけのもので、現実は当局の検閲を受ける立場だ。共産党政権に不都合な真実の報道や政権批判は許されるべくもなく「言論の自由」はないに等しい。
とりわけ強権統治に踏み出した習近平政権は、メディア統制を一層厳しくして、中国の国営通信社を再編するなど、報道内容などの面で直接的に支配するようになっている。
さらに現場の記者にも強権統治の手は伸びている。中国政府は昨秋、国内の主要な新聞社やテレビ局で編集業務に携わる記者らを対象に、習国家主席の思想の理解度を測る試験を実施して締め付け強化に動いた。不合格者には記者証が発行されず、記者活動から締め出されるのだ。
習政権下で進められてきた情報統制強化の背景には、内部告発による情報や統治の改善より、共産党一党支配の安定性や正当性担保の方が大事だという基本的認識がある。
ただ、中国のこの情報統制強化が新型肺炎の流行を助長したのは否めない事実だ。
昨年年末、武漢の眼科医、李文亮氏は最初に「感染者が出た」ことを大学の同級生らとの会話アプリで書き込んだところ年明け早々、公安当局から「デマを流した」として処分を受けている。この情報が広く共有されて、市民の多くがしっかり警戒していれば事態がここまで悪化することはなかったはずだ。
中国は情報統制強化という愚策で「勇気あるホイッスルブロワー(告発者)」を潰(つぶ)してしまったのだ。一種類の声だけがこだまするような閉塞(へいそく)空間こそが、中国をして新型コロナウイルスの培養器にしてしまったという社会的な反省が中国内部で出るかどうか注目される。
編集委員 池永 達夫










