夫婦円満はあいさつから
家族の根になる言葉が大切
夫婦・家族問題コンサルタント 池内 ひろ美さんに聞く
現代社会はさまざまな家族問題を抱えている。また、親子や夫婦の向き合い方に悩む家庭も多い。それらの解決方法について、夫婦・家族問題コンサルタントの池内ひろ美さんに話を聞いた。
(聞き手・石井孝秀)
結婚は異文化の擦り合わせ
文句でなく きれいな言葉で
令和の時代を迎えましたが、日本には解決すべき家族問題が数多くあります。昨年は元農林水産次官による長男刺殺事件などで、引きこもりが注目されました。

いけうち・ひろみ 1961年岡山県岡山市生まれ。1女の母。結婚や離婚、恋愛、親子関係などのコンサルティングを行っており、相談件数は3万8000回を超える。2013年からは一般社団法人ガールパワー代表理事に就任。著書に『リストラ離婚』(講談社)などがある。
私は普段、引きこもりの方の社会復帰支援を手掛けているわけではないが、以前にたまたま縁があって親御さんの相談に乗り、解決したケースがあった。その家の息子さんは、地元の高校から東京の名門大学に進学していた。しかし、地方出身者とばかにされ、就職先でもうまくいかず、ドロップアウトして家に引きこもってしまった。
私は彼に「昔、離婚後に地元に帰ろうとして父親から、世間体が悪いから帰って来るなと拒否された」という自分の身の上話をしながら、外の地域から家に帰してもらえないことと、家から出られず引きこもるのは実は同じことだと話した。
彼はエリートとして地元から上京し、「家」でも息子のことを「世間」に自慢していた。だが、その息子が突然戻って来てしまい、「世間」と折り合いがつけられなくなってしまった。「家」に帰った息子はより狭い自分の部屋に引きこもるしかない。
引きこもりのメカニズムをそう説明すると、彼は「そう!そうなんだ!」と食い付いてきた。なので、居心地が悪いなら思い切って地元を離れ、自分のことを誰も知らない場所でやり直したらいいと伝えた。その後、彼は社会復帰に成功したが、これはかなり運のいい事例だ。基本的に私は、親からの悩みを聞き、親自身が変われば子供も変わっていくというアプローチをしている。
引きこもり以外では、虐待や子供のスマホ利用などがよく話題になります。
虐待が早期対処できないのは、児童相談所の権限が小さいからだ。抱えているケースも多過ぎるので、権限を広げつつスタッフを増やし、しっかり教育する。給料を上げるだけでは駄目だ。
また、最近は親による子供への体罰を全て禁止する動きがあるが、それは問題だ。私が子育てしてきた中で、一度も子供を叩(たた)かなかったかというとそんなことはない。危ないことをしたときには、足を叩いて教えたことだってある。まだ言葉が十分に通じない時期には話して聞かせるより早く、そして分かりやすい。それすら子供への暴力と誤解されてしまうのはまずい。
体罰を禁止しても、何が体罰なのかは各家庭の判断に委ねられている。虐待とは子供の命に危機を及ぼす行為だが、何が虐待か明言しないと防止は難しい。実際、虐待をしている人が相談に来た時、「しつけのつもりだった」と言っていた。親がどういうつもりかではなく、受け止める側の子供がどう感じたのかが大事だろう。
スマホの問題もそうだ。時々、子供のスマホを取り上げて壊す人がいるが、幼いなりに子供にも自尊心がある。親の都合で一方的に壊すのは良くない。
ネットやSNSなど、親世代の時には存在しなかったツールが子供世代に浸透してきた。親がまずそれらを知ることで、子供に正しい使い方を教え、危険からも守ることができる。
大切なのは親が子供に関心を持つこと。関心は持ちつつ干渉はしないというのが親子の理想の関わり方だと思う。
子供が将来、一人の人間としてどう成長していくのかというイメージを持って、しつけや教育をすべきだ。そうしないと親は目の前の小さな子供にしか対処できないばかりか、子供を私物化して思い通りにしてしまう恐れもある。
ある人は妊娠した時、自分の余計な欲を子供に押し付けないようにと、般若心経の写経をやっていた。そういう人もいる。
少子化の原因の一つに若者の結婚離れがあります。若い人へ結婚はどう勧めていますか。
結婚はあなたにメリットがあるとか、成長につながると話している。異なる「家」の文化で育った二人が結婚をスタートすれば、掃除の仕方や食事の味付けも違い、正月は雑煮の具で論争が起きる。
異文化をどう擦り合わせて新しい文化をつくるかが問われる。自分の価値観を捨てるのではなく、増やしていく必要があるわけだ。融和性や創造力がなければ、二人は離婚するしかない。
いつまでもどこかの息子、娘というポジションだけだと成熟しきれない。夫婦となり父母となり祖父母となって、子供を生み育てていけば、自分より幼い人を守ろうという意識が出てくる。結果、人間として成熟していく。子供がいなければできない成長があるということだ。
夫婦が円満である秘訣は。
大切なのは「あいさつ」。文化とは言葉であり、夫婦や家族がどんな言葉を使うのかが家族の根になる。どんなに喧嘩をしても朝に「おはよう」と言い、食事でも「いただきます」「ごちそうさま」と言っていれば、いずれ仲直りできる。
あいさつのない家庭は夫婦仲も良くならないし、子育てにも悪影響が出る。虐待のある家庭でちゃんとあいさつする家庭は見たことがない。相手を褒めることも大切だ。文句ばかり言う人の顔は醜い。きれいな言葉やポジティブな言葉を使ってほしい。
長年家族問題に関わっていると、話がどんどんシンプルになる。あいさつなどの基本ができていない家庭が増えているように感じる。夫婦も最初は0歳からスタートだ。自らの手で育てなければいけない。