試練の年迎える日本外交
一層強まる中朝の脅威
日韓米協調、日米同盟強化を
新年を迎えるに当たり、恒例のことだが、昨年を振り返り今年を占ってみたい。昨年も多事多難の年であった。激動の年であった。世界各地でさまざまなことが起こり、例えば欧州では英独仏などでの国政選挙、中東での紛争と混迷(シリア、「イスラム国」〈IS〉、イエメン、エルサレム問題等)、アフリカでの内戦、中国の大国志向と強引な海洋進出などである。また世界的規模の問題としては、頻発するテロ、難民問題、地球温暖化問題など枚挙にいとまがない。そのうちでも日本外交に最も大きな影響を及ぼしたのは、米国のトランプ政権の誕生であり、隣国北朝鮮の核・ミサイル開発ではなかったかと思う。
まず、米国についてだが、トランプ大統領の1年を振り返って、2、3の気付いた点を挙げてみたい。一つは型破りの大統領であり、米国のみならず、現代の大国のリーダーと比べても、風変わりな指導者であった。二つ目は米国第一主義を旗印に、内向きを最優先とし、国際協調に背を向けることが少なくなかった。地球温暖化防止のパリ協定から脱退表明、環太平洋連携協定(TPP)からの脱退など、米国が音頭を取った国際協定からの離脱などは世界に衝撃を与えたし、エルサレム問題もそうであった。
三つ目は政策に首尾一貫を欠くことであり、確たる価値観に基づくというよりは即興的な、あるいは「取引」的な色彩が強く見られた。超大国であるだけに、世界はその言動に、しばしば揺さぶられたこともあった。だが、トランプ大統領は特異な性格の持ち主であること、そして外交経験が乏しいという点はあるものの、学ぶのも早いようで、実際の外交は逆説的だが、言行不一致も幸いして、一応軌道に乗りかかっていると評価できる面もある。
日本との関係は順調であった。これは安倍・トランプ両氏の個人的な関係が役立っており、安倍首相はトランプ大統領の最も信頼できる外国の首脳ではなかったかと思う。
次に北朝鮮の核・ミサイルだが、この1年で開発は着実に、かつ急速に進んでおり、北朝鮮からの脅威は新しい局面に差し掛かっている。核弾頭では水爆実験に成功したとみられるし、長距離弾道ミサイルの大気圏再突入技術や小型化、命中精度には、まだ問題があるとしても、完成段階から実戦配備までは時間の問題であろう。
さて、今年の展望だが、現在は不確実性の世界であり、加えて国際政治は、そもそも一寸先は闇のようなところがあるので、1年先を読むことは非常に難しいが、あえて日本と関係の深い若干の国について占ってみたい。今年も多事多難の年になろうし、昨年よりも一層、激動の年になるかもしれない。従って、日本外交にとっても試練の年になるであろう。
まず北朝鮮は、制裁の強化にもかかわらず、核・ミサイルの開発を続けよう。その目標は米国本土に届く核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成であり、そのために実験も繰り返し続けよう。そして、「国家核戦力」完成後は核保有国として、米朝対話を求めてくる可能性がある。この対話は曲者である。北朝鮮は核兵器国としての地位の確認、米国との平和協定の締結、制裁の緩和などを求めてくるだろう。米国と日韓の分断もその目的の一つであろう。これに対して、日本は韓国と共に米国と協調するとともに、米国に対し、国益の立場から主張すべき点は主張していかなければならない。他方、日本としても日米同盟の維持・強化、そのミサイル防衛の整備等に努めるのは言うまでもない。
次に米国だが、トランプ政権の過去1年間は主要外交について、多くが総論に終始したが、これからは各論に入らざるを得ない。また、今秋には連邦議会の中間選挙も控えており、トランプ政権としては国内政治的な考慮も一層、必要となってくる。従って、貿易など具体的な問題については意見の対立が出てくる可能性もあるし、安全保障問題については、深刻な意見交換・協議が必要になってくるかもしれない。日本としては安倍・トランプの良好な個人的関係を活用しつつ、自らの主張を開陳していく必要がある。
一方、韓国とは隣国同士でありながら、首脳間の交流がこれほど少ないのは異常でさえある。共通の深刻な安全保障問題を抱えながらも、しっかりとした協力関係を築けないのは不幸なことである。首脳往来(シャトル外交)の早期実現が強く望まれる。歴史問題が棘になっているが、安保と歴史問題は一応、分けて対応するというツー・トラック政策が望ましく、歴史認識についても未来志向の方向にウエートを置くことが望ましい。韓国側の大局的な前向きの対応が望まれるところである。
最後に、今年は日中平和友好条約締結40周年である。中国は習近平氏の強力な指導の下、外交面では経済力、軍事力を背景に大国志向の政策を強く打ち出している。中国の世界での存在感は一層強くなっている。潜在的には、中国の脅威は北朝鮮どころではない。他方、日本にとって中国は大切な隣国であり、バランスを取りながら、日中関係を進めていくことが必要である。ひと頃よりは、やや好転しつつある関係を今年も伸ばしていきたいと思う。
(えんどう・てつや)