カジノは外国人に限定せよ

秋山 昭八弁護士 秋山 昭八

日本は既に依存症大国

飽和状態の市場参入も疑問

 超党派国会議員でつくる「国際観光産業振興議員連盟」は10月、カジノなど統合型リゾート(IR)を推進する法案(カジノ解禁法案)を修正し、解禁対象を当面は外国人に限定するとした。日本人に対する解禁の是非については、IR推進法案成立後に政府が提出する関連法案の審議の中で、改めて議論される見通しのようであるが、禁止措置を講じて欲しいと願うものである。

 国際的には、自国民と外国人とで区別した入場規制の例は少なく、韓国やベトナムなど一部に限られている。シンガポールでは、カジノにのめり込んだ人などについては、家族の要請に基づいて入場制限を課す対策を取っている。

 カジノ解禁は安倍首相の肝いりで、政府は海外からの観光客増加などが図られるとして、成長戦略の一つに位置づけているが、ギャンブル依存症や青少年への影響などへの対策が不可欠であるばかりか、今や国際的にも飽和状態であり、採算性の上からも慎重な審議が求められる。

 安倍首相は参院での各党代表質問の答弁で、カジノ解禁への期待を示し、2020年の東京五輪までにカジノ施設の運営ができるようにし、外国人観光客の増加の起爆剤としたい考えを述べている。そのこと自体は理解できるが、種々問題がある。

 法案には、内閣府の外局として管理委員会を設置し、カジノ施設関係者に対する規制を行うと明記し、法施行後1年以内をめどにカジノの合法化などに必要な法整備を行うことも義務付けている。

 青少年を取り巻く地域社会など環境の変化に十二分の配慮が望まれる。

 かつて第15期青少年問題審議会で内閣総理大臣が諮問した、「青少年を見守り支援し、時に戒めることは我々大人の責務であり、また人材が唯一の資源とも言えるわが国にあっては、活力ある未来を創造する上で欠かせないことである。そのため健全で安定した社会基盤があって初めて実現できるものである。青少年が夢や目標を持ち、生きる勇気をもって未来に向け挑戦していけるよう社会全体で青少年を育て、見守っていくことが必要である」と述べている。このことは今日なお、核心的な言辞である。

 アベノミクスの成長戦略の具体策として、外国人を呼び込む大型の観光需要喚起策が要請されるのは理解できなくもないが、日本はかつて通称リゾート法(1987年公布)は、需要が過大に見積もられたことや、民間投資への過大な期待、地元経済界との乖離(かいり)などによって失敗した経緯がある。

 カジノには治安悪化や資金洗浄、依存症など、負の面が存在することを忘れてはならない。

 IR推進法案は刑法で禁じられた賭博の合法化で生まれる「巨大」市場である。

 米投資銀行CLSAは、2月に日本全国12カ所のカジノ開業で年間400億㌦の収益を生み出す巨大市場になると発表しているが、カジノが地域振興の「施策」ではなかった現実が、いま米国で顕在化している。「アトランティック・クラブ」閉鎖を皮切りに、3分の1のカジノが閉鎖というドミノ現象が起き、カジノ依存の地域振興の危険性が、いま全米各地で噴出している。

 カジノ拡大による競争激化により、私企業としてのカジノが撤退した後、それが残した「負の遺産」を背負い続けるのは国であり、地域社会なのである。

 第一に、カジノの収益は顧客の「負け金」であり、住民がカジノで大金を消費すれば、裏返して言えば周辺市から莫大な購買力が奪われマイナスの波及効果が発生することを意味する。

 第二に、東京オリンピック時にはアジアのカジノ市場が飽和状態に突入しているリスクがある。

 アジア市場に周回遅れで参入する日本が外国顧客とりわけ中国からのVIPを獲得するのは極めて困難である。

 第三は、確実に増大するのがギャンブル依存者増加による社会的被害とコストの増加である。ギャンブル依存症は、かけ金欲しさに嘘をついて家族や友人から借金し、はては高利貸しから犯罪にまで走る。家庭内暴力から離婚といった家庭崩壊、怠業から失業そして肉体的精神的病気の発症。カジノによるギャンブル依存者拡大を防ぐことは困難である。

 日本にはパチンコによって世界のギャンブルマシーンの60%が集中し、加えて競馬などの公営ギャンブルによってギャンブル依存症有病率は、成人人口の4・8%、デンマークやオランダ、ノルウェーなどが1%未満であるのとは対照的に、世界最高レベルにある。

 ギャンブル依存症とは、「今度こそ、絶対に勝つ」とギャンブルを続けた結果、失職や離婚、時には自殺や犯罪に手をそめる病気なのである。

(あきやま・しょうはち)