日本の報道の自由度ランク、なぜそんなに低い?

山田 寛

 世界で72位。国際NGO「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)が先日発表した、2016年版「報道の自由度ランキング」での日本の順位だ。アジアでも、台湾、モンゴル、香港、韓国より下というのである。

 私も、日本の報道の自由度が世界最高レベルとは思わない。新聞記者時代、社内の自己規制ムードに辟易(へきえき)したこともある。だが、RSFの数字には、以前から首をかしげてきた。

 日本は06年版(05年現在の評価)では51位、それが10年版(09年)では11位に急上昇し、12年版(10~11年)でも22位だったが、13年版以後は、53位、59位、61位、72位となった。

 高評価は、民主党の鳩山、菅内閣時代。安倍政権誕生後はガタ落ちだ。

 RSFは、16年版発表と同時に、「表現の自由に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏の訪日に当たり、安倍政権発足以来の自由の降下に、ケイ氏の注意を喚起する」と強調する文書を公表した。「懸念すべき政府圧力の例」として、花形キャスター3人が「強制降板させられたと思われる」こと、高市総務相が「偏った政治報告を続ける放送局を閉鎖すると脅した」こと、メディアの自己規制の増大、NHK会長人事、特定秘密保護法や憲法改正問題などを挙げている。

 要するに、客観的でなく、日本の左派の主張に99%拠(よ)っている。

 鳩山、菅内閣時代、中国漁船の体当たり事件で、政府がビデオ公開に反対し、真相を伏せたまま幕引きしようとしたことはあっても、報道の自由を大前進させてはいない。

 菅政権の総務副大臣も、高市氏と同様の発言をしていた。昨年、安保関連法案問題では、テレビは、法案賛成派より反対派の動きをずっと多く伝えた。

 今日もメディアの多くが安倍政権たたきに忙しい。そんな事実は無視されている。

 RSFは、フランスなど西欧の政府や組織の援助を受け、国連や欧州理事会の諮問組織だ。アジア支局はなく、アジア太平洋地域デスク責任者もフランス人である。130カ国に通信員を置き、また各国の記者や学者などへの詳細な質問を土台に、評価を行っている。つまり、そうした記者や学者の人選が左派に偏り、評価や報告の傾向に直結しているのだろう。

 それに、国際アンケートや世論調査では、日本人は自虐的に、自己に辛い点を付ける性向がある。そうでない国とは、順位ぐらいすぐ入れ替わる。

 ちなみに、別の有力NGO,米国の「フリーダムハウス」の「新聞自由度」ランキングでは、日本は05年は35位、09年は32位、14年は41位と、より変動幅が小さい。

 ケイ氏は、来日調査終了後の記者会見で、ほぼRSFが注意した通りの懸念を表明した。教科書の慰安婦問題の取り扱いにも政治的影響が及んでいると指摘した。

 同氏が高市総務相に面会を拒否されたと述べた件では、総務相は、ケイ氏の指定日時が国会の出席時間と重なったためで、拒否したわけではないと反論している。

 だが、2月の国連女子差別撤廃委員会の対日審査でもそうだが、国際機関の場では、日本の左派市民団体などが精力的運動、ロビー活動を展開し、日本政府の説明などを圧倒し続けている。

 日本政府や右派は、「世界のメディア戦線」や「国際機関戦線」での闘いをなお軽視し過ぎているようだ。高市総務相は、国連特別報告者と会見、説明するため、最大限努力すべきではなかったか。

 RSFやケイ氏の評価は傾き過ぎていると思う。だが、世界では、そんな評価が記憶、蓄積されていくのである。

(元嘉悦大学教授)