厳しい写真も直視しよう 難民幼児の死と軍事パレード
1枚の写真が、欧州と世界をゆさぶった。
今月初め、トルコからボートで欧州を目指した3歳のシリア難民、アイランくんの悲しい水死体写真。日本の新聞やテレビは海岸の遺体をズバリ出さなかったが、欧米では出したマスメディアも多く、欧州連合(EU)に大きな衝撃を広げた。
EUはすぐ、計16万人の難民受け入れ方針を決めた。難民・移民受け入れに消極的になっていた英仏首脳も、「義務と道義的責任」を再確認した。
米国など域外数か国も、シリア難民受け入れ増姿勢を表明した。
アジアのロヒンギャ族ボート難民の問題も合わせ、日本の反応は弱い。欧州で、アジアの無関心への批判も出始めた。1980年代のベトナムのボートピープルも、日本は欧米から批判された後で、積極受け入れを決めた。
日本がまだ消極的だった80年、バンコク駐在記者の私は、タイ南部に着いた11歳の少女難民の写真を新聞に載せた。難民船を襲い、レイプや略奪の限りを尽くす海賊が横行。少女らの船を襲った海賊は、難民たちを1週間無人島に監禁、少女も母親もひどいレイプの犠牲になった。
少女のOKを得て小さな後ろ姿を撮った。悲惨な状況を写真付きで訴えたいと力んだのに、大反響は得られなかった。妻から「後姿でも、載せるのは悪趣味」と批判された。
アイランくん写真への反応の鈍さの一因にも、むごい写真は出さない、見ない日本人の習性があるのではないか。奥床しい習性だが、今回は、遺体のズバリ写真・映像を出してよかったのではないか。その方が、3歳の非業の死の意味をより強く共有できるのではないか。私たちは、国際報道の厳しい写真も含め、事実をしっかり直視できない。だから、コップの外への反応が弱くなるのではないか。
同じころ北京から、抗日勝利70周年大軍事パレードの写真・映像がやってきた。
新型ミサイルなどが大威張りしていた。だが、日本人の多くはこれもあまり直視しなかったようだ。安全保障関連法案の国会審議の最終盤、世論調査では、反対が賛成のダブル・スコア近い。だが、野党も左派メディアも国会前デモも、コップの中のかけ声の「戦争反対」「憲法違反」ばかりで、中国や北朝鮮やロシアには触れない。
イスラム過激派のIS(イスラム国)は、処刑や虐殺の写真・映像をネットで流し続ける。しかし、日本ではそんな写真はマスメディアに出ないから、ISの残虐さへの認識が少し薄れもする。新聞の投書欄に、ISにも憲法9条を説くのが一番、それで日本人は襲われない、式の一国平和論が載りもする。
北京パレードのもう一つの衝撃写真は、天安門楼上の潘基文・国連事務総長の席順を示す写真だった。習近平・主席の隣どころか、プーチン・ロシア、朴・韓国、ナザルバエフ・カザフスタン、カリモフ・ウズベキスタン各大統領に次ぐ5番目。3、4番目は中央アジアの中小国で、4番目は北朝鮮などと並び、最も自由と人権のないとされる国だ。
今年5月、潘・事務総長がモスクワのロシア戦勝70周年軍事パレードに出席した時も、2列目のかなり横の席だった。
これらの写真こそ、中国やロシアが力を誇り、国連を軽く見ている証拠だろう。日本の安保法案反対派の頭の中には、憲法9条の旗を掲げ中露などと平和・友好的に話し合う、日米同盟強化より国連に頼る、というボンヤリした青写真があるかもしれない。だが、事務総長の席順の写真をもう一度よく見てほしいと思う。
(元嘉悦大学教授)