正恩氏が広島にやって来る日

外国人青少年を被爆地に

山田寛

 8月6日を前に広島に行った。平和記念公園と資料館は、山口で開催中のボーイ&ガールスカウト世界大会の参加者が団体で訪れていて、外国の少年少女がいっぱいだった。

 外国人、特に若者が大勢見学に来てくれるのは心強い。資料館の外国人入場者は、昨年度、初めて20万人の大台に乗った。窓口で見て外国人と判(わか)る入場者の合計だから、実数はもっと多いわけだ。

 見学者が感想を記すノートの最近分を見ても、様々な国の人名がある。ただ、中国人、韓国人などの記入は、ごくわずかだった。

 今年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、日本は「世界の指導者、若者に広島・長崎訪問を促す」文言を最終文書に入れようとした。中国は「日本は被害者面をするな」と反対し、韓国もそれに同調した。政治的反対だった。

 「世界終末時計」というものがある。核戦争などで地球が滅亡する時(午前零時)が近づいているか、科学者たちが判断し、警鐘を鳴らす時計だ。米国の核専門誌「原子力科学者会報」で発表されている。その時計が今年初め、3分前になった。

 2010年、それまでの5分前から6分前に遅らされた。オバマ米大統領が登場し「核兵器のない世界」を目標に掲げたためだが、12年にはまた5分前、そして今年、3分前へと進められた。

 東西冷戦たけなわの1950年代には2分前、80年代には3分前もあった。だが、冷戦終了後四半世紀の今、科学者たちが「全く平和に近づいていない」「世界の核政策は失敗している」と厳しく判定したのだ。

 今年3月、プーチン・ロシア大統領の「昨年のクリミア編入の際、核戦力を臨戦態勢におく用意をした」というドッキリ発言があったし、中国が核兵器も増強しているとの見方が、専門家の間で定着した。北朝鮮は今や「オレも核保有国」のドヤ顔をし、NPT再検討会議は成果ゼロに終わった。

 イラン核問題協議は合意に達したが、中東の「核開発ドミノ」を心配する声もある。加えて、過激派テロ組織が大量破壊兵器を入手したら…。来年、終末時計は、過去最悪と並ぶ2分前になるかもしれない。被爆体験を世界に伝え、訴える重要性は、これまで以上に増している。

 広島では今月、国連軍縮会議、来年はG7サミット(主要7カ国首脳会議)外相会議も開かれる。ただ、G7ではロシアも中国も来ない。広島、長崎での国際会議開催は当然有意義だが、外国の若者に被爆地を訪れてもらうキャンペーンを、もっと強力に展開すべきではないか。

 資料館で、犠牲者の遺品や、人影のついた石を息をのんで見つめる少年少女を見ながら、やはりここに来てもらうのが一番だと思った。

 外務省は、アジアの青少年を短期間日本に招く交流事業を行っている。特に中国からは、6月以来10に上る青年代表団を招いている。だが、相手への配慮か、広島、長崎はなかなか訪問先に含まれない。

 含めるよう努めるべきではないか。そして、ずっと数の多い外国人、特に中国人の在留者、留学生、観光客が足を向けるような、大キャンペーンを展開できないか。留学生向け広島・長崎夏休み無料周遊券など、どんどん考えられないだろうか。

 その先に、将来中ロ首脳らの被爆地訪問もあるかもしれない。そして、いつか北朝鮮の独裁青年も。拉致問題完全解決後の金正恩氏が、原爆の子の像の前で首を垂れ、核放棄を誓う。真夏の夜の夢でも、そんな場面を見たいと心から思う。

(元嘉悦大学教授)