サミット今昔感 欧州の主役への復帰がカギ

山田寛

 先日ドイツで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、中国やロシアの力による現状変更の試みへの明確なNOを、宣言に盛り込んだ。その方向へ強くリードしたのは安倍・日本で、「日本が国際政治のプレーヤーになった」(櫻井よしこ氏)と評価されている。だが、1980~90年代に、記者としてサミットをフォローした私は、今昔の感に堪えなかった。
 当時のサミットはレーガン米、ミッテラン仏大統領、サッチャー英、コール西独首相ら大型役者がそろい、東西冷戦の政治でも、経済でも、ガチンコの丁々発止を繰り広げた。欧州首脳は、欧州にかける思い、哲学を強く感じさせた。

 85年のボン・サミットのミッテラン記者会見を思い出す。レーガン米国は「対ソ連ミサイル防衛網を宇宙に広げる」壮大なSDI(戦略防衛構想=スターウォーズ計画)を進めようと、西欧諸国に参加を求めていた。

 英独などが参加同意に向かう中、仏独自の核戦略、欧州独自の科学技術開発、強い欧州を掲げるフランスが注目された。日本時間午前1時過ぎ、日本の新聞の朝刊締め切りギリギリに始まった会見で、大統領は興奮した声でSDI不参加を発表した。私も興奮した。頑固な欧州哲学に感じ入ったし、懸命に聞き、必死に即送稿しなければならなかったからだ。

 別の今昔の感は、89年のパリ・サミットである。

 中国の天安門事件直後で、首脳宣言は民主化弾圧を非難しながらも、各国が決めた制裁以上の共同制裁を打ち出すことを避け、「中国の孤立化回避」の字句が挿入された。各国に働きかけ、ソフトな宣言へ導いたブレーキ役は、日本だった。欧州勢は、中国に強硬なアクセルだった。

 それが今年は全く逆転した。中国の南シナ海での埋め立ては、以前から始まり、昨年初めから本格化したが、英独仏伊は、中国への自制要求より対中経済関係拡大を重視、アジアインフラ投資銀行(AIIB)にこぞって参加を決めた。オバマ米国の指導力低下が露骨に示された。

 中国は今回、欧州が日米にブレーキをかけるようロビー活動も展開、欧州を迷わせたという。結局、欧州は日米に同調、「現状変更への一方的行動」に強く反対する宣言の採択となった。日本が脇役から主役になったから喜ぶべきだろう。

 だが、その日本の安保関連法案の国会審議や、世論の多数の反対を見ると、これで大丈夫か心配になる。多くのメディアや野党は、安全保障環境の変化を無視・軽視している。政府・自民党も国民を納得させる努力が不十分だ。

 米国の影響力と存在感が弱まり、欧州がギリシャ危機、移民から英国の欧州連合(EU)脱退国民投票実施まで、域内問題でさらにバラバラに内向きになり、一層脇役になったら、世界の安全保障や政治でのサミットの影響力はどうなるのか。

 役者は小粒化し、世界一影響力ある女性とされるメルケル独首相も、元東独出身で欧州哲学とほど遠い。今回の会議前、「南シナ海は欧州には遠く、利害関係が薄いから」との懸念が相当あった。それでは困る。英仏は、国連安保理の常任理事国なのだ。国際安全保障への責任は大きい。当面、中国やロシアに、欧州がどんなフォローアップをするか。

 今月末のAIIB設立協定調印式で、シャンパンのグラスを合わせるだけなのか。G7サミット限界説が強まる中で、米国のリーダーシップ復活と同様かそれ以上に、欧州の主役への復帰が、将来へのカギを握るだろう。

(元嘉悦大学教授)