AIIB参加見送りは正解 中国の新秩序戦略を受け入れず
1990年代前半、ワシントンで米議員らから言われた。「日本ももう少し、人権や民主主義重視の外交をしてほしい」
日本は、日米首脳会談の共同文書などでは、民主的価値を共有する両国は…などと見栄を切るが、外交の実践ではその価値観を棚上げしていた。80年代まで人種隔離の南アフリカで、「名誉白人」待遇で商売に励んだ。89年の中国の天安門事件後、対中制裁を一番先に解除した。民主化運動弾圧のミャンマー軍事政権への制裁も、対北朝鮮も弱腰だった。
だが、今や風向きが逆になった。中国が推進するアジアインフラ投資銀行(AIIB)のことだ。3月末の期限までに、なんと英仏独など50の国・地域が参加申請した。英国は、オズボーン財務相の「商業的利益が外交上の懸念に勝る」という、以前の日本のようなセリフで参加を決めたとか。欧州は、対中経済関係の実益を優先した。
日本の参加見送りは正解だったと思う。第一に、中国の経済的ねらいは、中国の過剰生産能力のはけ口を求め、海外への企業進出を一層増進させることだろう。朝日新聞社説は、「運営方法などについての中国の考え方が改善してきたことを指摘する国がある」とし、日経新聞は「積極的に関与し、関係国の立場から建設的に注文を出して行く」よう主張した。だが、中国のねらいは変わるまい。
アジアでもアフリカでも、中国の経済協力、投資、企業と労働者の進出が問題や摩擦を起こしてきた。最近もラオス、カンボジア、ミャンマーなどでのダム建設や鉱山や農地の開発が、環境破壊と住民の強制立ち退きをもたらし、カンボジアでは多数の織物工場の“女工哀史”も生んだ。アルジェリアでの高速道路建設は「汚職道路」の異名もとった。小島国モーリシャスの建設業界を企業と大量の労働者で“乗っ取り”、コンゴ民主共和国では不法中国系商店群への民衆の一斉襲撃を招いた。
住民の反対デモでは死傷者も続出している。経済援助の見返りに、ウイグル難民集団を中国に送還もさせる。スリランカの港湾整備では、早々に潜水艦を寄港させ、露骨に企図と力を誇示した。日本は、こうした中国式開発援助や投資とは常に一線を画すべきだ。 こんな懸念もしたくなる。AIIB融資で、中国製原発がより安価になり続々受注を獲得するかもしれないが、安全性はどうだろうか。私が住民なら、中国より日本の原発の方がまだ安全に思える。列車事故車両と違い、原発は埋められない。
第二に、中国の究極目標は、中国主導による陸と海のシルクロード沿い巨大経済圏の構築、アジア新秩序の樹立だろう。
AIIBはその支柱だ。共産党独裁大国の太平洋西半分支配は受け入れ難いから、参加すべきではない。
日本は中国の覇権主義的膨張戦略に直面する最前線だ。朝日新聞は別の社説で、安倍政権が激走できるのも、長引く不況、中国の「台頭」、格差社会の深刻化、東日本大震災などで、「何が不安なのかわからない不安」があるからだと言う。過去27年中26年も国防予算2桁増を記録し、金力を最大限ふるい、東、南シナ海を自分の庭と見なす国に、「台頭」という単語は甘すぎる。その脅威はよくわかる不安である。
ただし、中国の新秩序はノーでも協力は進めるべきだ。日本主導のアジア開発銀行(ADB)の改善すべき点を改善し、ADBがAIIBと協力する。アジアと日本のため、それが最善と思われる。
(元嘉悦大学教授)